溺愛確定 冷徹御曹司とのお見合い事情
「ひとまず今日は気にしなくていい」
部屋に入ることさえ躊躇っている私に、吉池さんは腕時計を見ながら言った。
「仕事で遅くなるから」
言われて見れば吉池さんの服装はワイシャツにスラックスだ。
「土曜日もお仕事なんですか?」
聞くと吉池さんは急な仕事だと教えてくれた。
「引っ越し蕎麦を茹でるつもりでいたのに残念だ」
「え?あぁ。フフッ」
吉池さんなりの気遣いが嬉しくて、真面目な計らいがなんだかおかしくて、緊張と不安が少しだけ溶けた。
「ありがとうございます。でも今日は気にせずお仕事に行ってもらって大丈夫です」
むしろ……
「むしろいきなり一緒に寝ることにならずに済んで良かった」
吉池さんの言葉に心の声が漏れたのかと慌てて口元を押さえた。
「図星か。恋愛経験が少ないというのは本当のようだな」
「兄に聞いたんですか?」
聞くと吉池さんは肩を竦ませた。
「もうっ。ペラペラと勝手に人のこと話して」
でも知られているのなら隠しても無駄だ。