溺愛確定 冷徹御曹司とのお見合い事情
「こちらでお待ちください」
支配人の言い方から、扉を開けて確認するまでもなく、先方が席を外してことが分かった。
それでも万が一ということもあるので「失礼します」と声をかけて、慎重に扉を開けた。
やはり室内には誰もいない。
それをいいことに、躊躇することなく足を踏み入れ、部屋をぐるりと見回す。
広さは12畳ほどだろうか。
広くもなく狭くもない。
部屋奥にある窓からは春の暖かな陽射しが惜しみなく差し込まれ、室内はとても明るい。
濃い木目の天板の机に、高級感漂うレザーチェアが8脚。
きっと会議にでも使う部屋なのだろう。
壁に掛けられている大きな絵画はシャガールの複製画だ。
別名「愛の画家」と呼ばれたシャガールの絵は、ひとりの女性と運命的な出会いを果たし、彼女をひたむきに愛し抜いたことから結婚祝いや贈答用のお祝い事にも多く利用されていると聞いたことがある。
先方がそのことを踏まえてこの部屋を用意したのだとしたら、ロマンチストなのかもしれない。
苗字しか知らされていないまま、兄を信じてやって来ただけなので、絵画を前に、どんな人なのだろうという期待が膨らんでいく。