勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
「ケガ、しなかったか?」




彩梅の顔をのぞきこむと、彩梅がこくこくとうなづく。




「彩梅、駅の階段でもコケるんだな……」




「……駅の階段から落ちたのは、初めてです」




「それにしたって……」




「だ、だって、あんなところで、あんなことされたら、



緊張しちゃって、動揺しちゃうし、足に力入らないし、



もうドキドキしすぎて、階段なんて降りられない!」




たどたどしく涙目で抗議する彩梅は、



可愛すぎていろいろヤバイ。




「悪かったよ」




「え?」




「俺が悪かった。あんなところで」




「で、でも、迎えに来てくれて、すごく嬉しいです!」




弾けるように笑う彩梅が眩しすぎて、



目を細める。




「これからは、出来るだけ迎えに来るよ」




「どうしてですか?」




「彩梅をひとり歩きさせるのが不安だから」




「……私、ひとりで帰れますよ?」




「うん、分からなくていいよ。つうか、顔、ゆであがってる」




「だって、九条さんが……」




「え?」




「その、すごく、かっこいいです」




……は?




「そ、そういうカッコ、するんだなって思って」




「ただの白パーカーだけど?」




「すごく、カッコいいです」




彩梅の沸点はよくわからない。




とりあえず、ぎゅっと彩梅の手を握り、



電車に乗り込む。




無言のままの彩梅の顔をのぞきこむと、



彩梅の顔がさらに赤くなる。




今のところ、特訓の成果は全くないらしい。




「彩梅、親父さん、なにか言ってる?」




「いえ、とくに。あ、でも早く帰って来いって」




「そっか」




電車のなかでは、



彩梅を男子高校生の視線から隠すように



両腕でくるむ。




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