勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
「九条さん、ここは?」




「俺の仕事場で、俺の家」




「九条さんの家……?」




一見すると、マンションの入り口すら



どこにあるのか分からないような、



厳重なセキュリティ。




エレベーターに乗るときには、



カードキーのようなものを差し込んで最上階で降りる。




「……す、ごい」




それしか言葉が出てこない。




部屋に入ると、



リビングルームからは、



ぐるりと遠く広がる景色が眺められる。




奥には広いキッチンと大きなダイニングテーブル。




テーブルの上には



大学のテキストや資料らしきものが山積みされている。




扉のあけられた書斎には、机と壁一面の本棚。




部屋のあちらこちらに段ボールが積み上げられている。




「ここに、お引越しするんですか?」




「ここは、俺と彩梅の家だよ」




「……九条さんと私の、……うち?」




意味がわからず、きょとんと九条さんを見上げる。




「本当はもう少し形が整ってから



迎えに行く予定だったんだけど、



だれかさんが、いきなり見合いなんてするから」




むにっと鼻をつままれて、目をぱちくりさせる。




「バカ彩梅。ほかの男と見合いとか、ふざけんな」




ぎゅぎゅっと九条さんに抱きしめられて、



ドキドキして、でも、なにがなんだか分からない。




「はあ、やっと彩梅に会えた」




九条さんの体温に包まれて、



またじわりと涙が浮かんでくる。




で、でも……




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