勝手に決められた許婚なのに、なぜか溺愛されています。
「今後のことはふたりの意志に任せるとして、



今日はふたりに見てもらいたいものがある」




おじいちゃんが差し出したのは一枚の古い写真だった。




「写真に写っている女性は西園寺小梅さんだ。



彩梅もよく知っているだろう?」




突然でてきたその名前にきょとんとしつつ、



小さくうなづく。




独身を貫き、西園寺家にその一生を捧げた小梅さんには、



10代の頃に結婚を約束した人がいたという。




その相手のひとの名は、九条万里さん。




当時の九条家の当主になるはずの人だったらしい。




「もともと万里さんと小梅さんは年の離れた幼なじみで、



ふたりの想いを叶える形での縁談だったらしいの。



でも万里さんは、結婚の直前に命を落としてしまい、



ふたりの想いが叶うことはなかったの」




そう言って、お母さんが目を伏せた。



小梅さんが独身だったのは、


ずっと一人の人を想っていたからだったんだ……




セピア色の古い写真には、



若いころの小梅さんと、



どことなく九条さんと似ている男の人が映っている。




その古い写真の裏に記された短い一文に、



九条さんと並んで視線を落とす。




《何度生まれ変わっても、ともにありましょう》




達筆なその文字は、



力強く、祈るように添えられている。




「小梅さんは亡くなるその日まで、



その写真を胸元にいれて大切にされていたそうよ」




じっとその写真を見入っていると、



九条さんがぎゅっと私の手を握った。




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