BATEL
第14章 初任務
メルーン王国の宮殿、玉座の間には100数名の衛兵や隊長が参列していた。

バミリオ王
「メルーン王国傘下のサウセル国領土の西海谷で魔物の軍勢が出現した。魔物は基本群がる生物は少なくないが何万となして群れている。そんなことはあり得ない。原因を突き止めろ。サウセル国兵に加担し人命救助を優先に敵を殲滅。出発は3日後の早朝。第一部隊、第二部隊、第三部隊は出陣せよ。」

隊長3人は膝をつき従った。

バミリオ王
「第二部隊隊長、お主はこの隊として初の隊長となる。心してかかれよ。」

レビィ
「はっ!!」

衛兵
「あれが噂の光の聖騎士だってよ。」

衛兵
「バミリオ王直々に頂いたあの細い剣があるだろ?この国の家宝らしいぞ。」

レビィは厳しい訓練、数々の任務をこなし隊長まで上り詰めた。

第一部隊隊長
ラッセル=メイヤー
リザードマン族で体格は遥かに大きく気迫溢れる図体、そして背中には大きな斧を背負い上半身は服を着ず、無数の傷がいかに今までの戦闘をくぐり抜けてきたか物語っている。

第二部隊隊長
レビィ=ナーヴァ
ここ数年で筋肉もより付き、顎に少し髭も生えたワイルドな青年となった。

第三部隊隊長
ミレー=ブラウン
ハーフエルフ族の老人。ただメルーン国一の風属性の魔術士として大陸に名を轟かせた。

レビィは訓練所に戻った。

「お前もとうとう隊長か。」

レビィ
「ボルベン!」

頭から足までふさふさの三毛の色をした毛で覆われた獣人族でレビィと同期の親しい友人だった。
2人は軽くハグをした。


ボルベン
「第五部隊はまた別の任務だってよー。」

レビィ
「そうか。共に戦場にいけると思ったのにな。」

ボルベン
「嫌だね。俺はあんな臭そうな所はごめんだ。この国でババアの道案内してる方が気が楽だぜ。」

レビィ
「ババアでも魔女には気を付けろよな。」

ボルベン
「お前はケツに気をつけな〜ほら!」

ボルベンはレビィの尻をけつった。

レビィ
「やりやがったな!てめぇ!」

笑いながら2人ははしゃいだ。

ボルベン
「おい。レビィ。西海谷は気をつけろよ。ドラゴンが出る噂だぞ。」

レビィ
「でっけぇ空飛ぶヘビが怖いのかー?」

ボルベン
「お前のでっけぇ空飛ぶクソの間違いじゃねぇのか!」

ボルベンはレビィの頭を軽く叩いた。

レビィ
「お前!またやったな!」

衛兵
「おい、てめえら他でしな!」

ボルベン
「こいつは隊長だぞー!」

衛兵A
「隊長でもでっけぇ空飛ぶクソには怖いんだな。あはははは」

レビィ
「てめえ!戦場では覚えてろよ!後ろから突き刺してやるよ!」

衛兵A
「んじゃあ俺は横からてめえのケツをけつってやるよ。あははは」

ジョークを言い合う本当に仲がいい連中の集まりだった。

衛兵A
「なあ、レビィ。お前の妹冒険者になったんだって?」

レビィ
「ああ。」

衛兵B
「魔法使えるらしいな〜。お前の妹。十分守ってやんなー。ってもう旅に出てたら遅いな。あはは」

数人の衛兵は洗いながらブーツを磨き始めた。

レビィ
「気を付けろってどうゆことだよ?」

衛兵B
「お前、知らねえのか?年々魔法を使える奴は減ってきてるのさ。一部の国では魔法を使える輩は蔑んで差別が起きているらしい。」

レビィ
「何だよ、それ。」

衛兵A
「さあな。俺らもミレー隊長のように風魔法バンバン打ってみてえよ。さぞかし快感なんだろうな。」

衛兵B
「お前は屁でも打ってろよ。ぎゃははは。レビィよぉ。各地の国の魔法使いは魔法を蔑まない国に逃亡して隠居生活してるってことよ。将来は魔法が無くなる時代になりそうだな、こりゃ。」

レビィは少し考えながらブーツを磨いた。

レビィ
「俺の妹は強えから問題ないだろ。」

衛兵A
「強い弱い関係なくねぇかそれ。」




朝は肌寒く霧が立ち込めたゴレアリア大国。

レイ
「おっしゃ。んじゃ、行くか。」

ゾーイ
「おう。」

メル
「魔物退治へ!」

クロエ
「まず冒険者ギルドだね。」

ルナ
「んにゃあー!」

冒険者ギルドの掲示板に群がる何人もの冒険者。

メル
「うわー結構人多いね。」

レイ
「朝一は任務も更新されるからな。ちょっと待っててくれ。取ってくる。」

クロエ
「難しそうなのはやめてねー!」

人混みをかき分けレイは掲示板の前。

レイ
(まずはEの簡単そうなもの....スペルドウルフの討伐?犬か。んじゃこれと....)

レイはEランクの張り紙を取り継続して任務が出来そうな張り紙を探した。

レイ
(この犬っころの任務の近くがいいな....採取?薬草か。とりあえずこれでいいか。)

2枚目を素早くとった。

ナーシャ
「Eランクの任務が...あら、2つも受けるの?張り切るわね!んじゃ気をつけて行ってらっしゃいな!」

クロエ
「いってきまーす!」



ゾーイ
「スペルドウルフって何だ?」

レイ
「さあ、犬だと思って適当に取ったよ。」

クロエ
「犬だろうけどさぁ....」

4人は転送陣に向かった。

レイ
「メル、もう唱えんなよ?」

メル
「わかってるわよ!」

レイ
「西へ。」

シューンッ

パッ!!

ゴレアリア大国の城壁は頑丈でメルーン王国とは違う色の石を使い固められていた。

衛兵
「冒険者の方ですね。ではどうぞ。」

大きな門を潜り国から出るとすぐに森に繋がった。

レイ
「ここがレイリーウッド。」

家の側のタナラの森とは違い明るく幻想的で一つ一つの植物が生き生きとし流れる小川は心地よい音を奏でていた。

クロエ
「なんて綺麗な森なんだろう。」

ゾーイ
「エルフが出そうな所だな。」

メル
「ハーフエルフとは違うの?」

ゾーイ
「あいつらは種族の中でも社交的で森の生き物、植物と会話をし森が我が家として生きる種族だよ。長命で1000年生きると言われている。」

レイ
「悪魔族のヴァンパイア族とは違い老いるがな。ナーシャさんも何も言わんかったからエルフ何て出ねえだろ。ほら行くぞ。」

草木をかき分けなくとも歩く幅は綺麗に整えられ地面にはご丁寧にレンガで出来た道も出来ていた。

国から出て1時間は歩いた。

メル
「クロエ。あんたよくそんな靴でこんな凸凹道歩けるわね。」

クロエの靴はヒールが高いショートブーツで冒険するには非常に適さない靴だった。

クロエ
「履いたら視界が高くなっただけであまり疲れないし普通の靴よりも歩きやすいんだよ!」

メル
「ほんとー?魔道具って感じにも見えないけどね。」

レイ
「しっ!!!」

レイはクロエとメルの口を塞ぎ2人を無理矢理引っ張り大きな木に隠れた。
ゾーイが一番に何かを察したのか低い体制でレイに伝えていたのだ。

ゾーイ
「あれがスペルドウルフか?」

レイ
「そうみたいだな....」

森の中で大きな像のような魔物を仕留めたのか20匹弱で群がり食べていた。
1匹1匹体長が皆と同じくらい大きくそこらの犬よりも獰猛で青い目、真っ白な毛をしていた。

メル
「ちょっと、レイ!犬っころって言ったよね?Eランクの任務だよね!ちょっとやばくない?あの数!」

ゾーイ
「レイ、任務達成数は?」

レイ
「5匹だ。あの数をやるのは厳しいな。」

クロエは少し考えた。
今は死体を食べて夢中になりこっちに気づいてもない。こっちは剣士が2、魔術士が2。一気に倒す魔法....早い呪文でこっちにはすぐには気づかれない魔法....雷魔法!雷魔法でもかなりの数は減らせる。よし。いける。

クロエ
「皆、集まって。」

クロエは静かに囁き3人を集めた。





クロエ
「んじゃ。行きますか。」

クロエは呪文を唱えた。

クロエ
<加速魔法>

レイとゾーイの足は黄色に光り、元に戻った。

クロエ
<硬化強化魔法>

レイ、ゾーイ、メルに強化魔法がかかった。

クロエ
<重力魔法>

レイ
「うおっ何これ?!軽っ!!!」

レイの両手に持った剣は木のように軽くなった。

ゾーイ
「この軽さに慣れたらクロエの魔法に頼りたくなるな。」

クロエ
「2人とも静かにして。ゾーイ?頼ってもいいからね!んじゃ作戦通りいくよー!」

クロエは木の影から20匹弱のスペルドウルフの奥にある木の枝に狙いをつけた。

クロエ
<浮遊魔法>

その木の枝は大きく揺れ、折れて落ちた。

バサッ!!!!

スペルドウルフは4人の木の反対方向の落ちた木の枝にビクッとしそちらを見た。

メル
<雷よ。雷鳴と共に落ちろ。>

スペルドウルフの頭上の空から大きな雷が落ちた。

ズドーンッ!!

クロエ
(やっぱこれだけの数だったら一度じゃ倒せないよね!)

木の影からレイとゾーイは左右に分かれ飛び出しものすごいスピードで倒しきれなかったスペルドウルフに切り掛かった。

ゾーイは大剣で振り回し2匹のスペルドウルフの図体を一気に切断しレイは両手の剣で突き刺し、とどめに両手の剣をハサミのようにクロスさせ頭を切断した。
20匹弱のスペルドウルフは一気に死体と化した。

メル
「ふぅ,....」

レイ
「いっちょ上がりだな。」


クロエ
「レイ!!!後ろ!!!」

皆より遥かに大きく3倍程の体長に図体は大きく片目は傷がありその目は瞑っていた。

ゾーイ
「こいつらの長か?」

グオオオォォォォォ!!!!

その雄叫びでレイとゾーイは少し後退りした。

クロエ
「レイ!ゾーイ!まだ補助魔法かかってるよ!そのままいって!」

ゾーイ
「おう。」

レイ
「俺がリーダーなんだがな....行くか。」

スペルドウルフは鉤爪でゾーイに襲いかかりその鉤爪をゾーイは大剣で受け止めた。剣と鉤爪で火花が飛び散った。

ゾーイ
「補助魔法無かったら受け止めきれてねぇ!なんて力だ。」

レイ
「今いく!」

スペルドウルフは片手でゾーイの大剣を止めつつ牙でゾーイを食べようとした。
レイは両手の剣ですかさず閉じる口を遮った。

レイ
「食わせねぇ!!!」

クロエ
「メル!そのまま打って!」

クロエ
<魔力増加魔法>

クロエはメルに魔力増加魔法をかけた。そしてレイとゾーイに向かって唱えた。

クロエ
<魔法無効魔法>

メル
<雷よ。雷鳴と共に散れ!>

頭上ではなくメルの杖の先端からパチパチと鳴り青い光を放ちスペルドウルフ全体を覆い被すように雷が放たれた。レイとゾーイも青い光に包まれた。

メル
「やばい!やばい!この大きい魔法やばい!レイとゾーイにも当たる!」

クロエ
「そのまま!」

ズドーーーーーンッ!!!

さっきの雷魔法の規模とは違い周りの木まで当たり雷鳴と共に焼け焦げた。

レイ
「そんな魔法あるなら最初からしとけよ。」

メル
「ち...違うよ。」

ゾーイ
「驚いたな。クロエ。お前に冷静な洞察力と判断力があるなんてな。」

クロエ
「レイ。今ので分かった?私はメルのように破壊魔法で敵を倒すのはそんな得意じゃない。でも皆を強化したりして強くする魔法が得意なの。」

レイ
「クロエ。お前の強化魔法はどんな種類があるんだ?」

クロエ
「さっきの全てだよ。全部本で覚えた。呪文を覚えて魔力を一気に放つ破壊魔法とは違って強化魔法は呪文を覚えたらすぐ使えるよ。でも<魔法無効魔法>ってゆう魔法は魔法を無効にする力があるけど一度しか無効化されないし日に何度も使えない。」

レイ
「メルの魔法は?」

メル
「頭上から落とすタイプとこの杖から出すタイプ。頭上からズドーン!は室内じゃ使えないみたい。」

レイ
「なるほどな。了解。とりあえずお前らの戦闘スタイルが分かったよ。クロエ、さっきはサンキューな。」

クロエ
「頼むよ。リーダー!」

クロエはクシャッと困った顔で笑顔を見せた。

レイも少し頬を赤く染めて笑った。

ゾーイ
「こいつらの耳だったよな。確か。」

レイ
「おう。片耳だけでいいぞー。」

メル
「切ったらちょうだいね!ポーションで血抜きするから!」


クロエは少し疲れていた。目眩がし、少し座り込んだ。
補助強化魔法は魔力の扱いが難しい分疲労が溜まる。
クロエはカバンの中のエーテルを一本飲んだ。

少し遠くからゾーイは草を見て叫んだ。

ゾーイ
「おーい!ここに薬草あるぞ!」


レイ
「おっ。ラッキー!ゾーイ!ちと集めといてくれや!」

レイ
「おい、クロエ大丈夫かー?」

クロエ
「少し休むよ〜。こう任務に毎回ヘバってたらいけないから訓練が足りないねぇ。」

レイ
「お前はこのパーティーの要だからな。何があっても守らないとな。」

レイは少し照れて頭をかきながらそう言った。

クロエ
「ありがと。」

クロエは帽子を拾いあげ立った。
エーテルの効果は絶大だった。
ポーションは傷にかけたり飲んだりすると治る。ただ一般的なかすり傷やそこまで深くない傷のみ。切断された腕や骨まで見える傷は治せない。
エーテルは魔法を使う魔術士の疲労を回復する薬。
魔法は何度も無限に使えるわけではない。回数が限られている。その回数に近くなるか超えた場合激しい疲労で立つことも困難。そのためにエーテルが開発された。瞬時に魔力を回復し魔法を打つ前のように元気に戻る。

メル
「クロエー!一緒に草取ろうよー!」

クロエ
「今いくー!」


こうして4人の初めての任務は終わった。
もう陽は落ちかけ夕暮れになっていた。

ナーシャ
「あなたたち5匹ってちゃんと書いてなかった?」

レイ
「いや、群がってたんで全部倒したんすよ。」

ナーシャ
(5匹でもEランクだとやっとで倒すのに彼ら強いの?スペルドウルフの長の耳も...)

クロエ
「追加報酬とかあるのかな!今日は打ち上げだね!」

メル
「肉!肉!肉!」

ゾーイ
「久しぶりにエール呑みてぇな。」

ナーシャ
(いや、強そうには見えないけど....)

ナーシャ
「これ、全部貴方達でやったの?」

メル
「そうだよー。」

ナーシャ
「この大きな耳。スペルドウルフの長の耳よ。Dランクの上位のパーティーで倒せるかどうかの敵なの。勝てるかどうかは無理はしないように無理そうなら逃げて帰って来ていいんだからね!」

ゾーイ
「でも襲ってきたんだ。」

レイ
「そうそう。」

ナーシャ
「こんな無茶したら次転ぶのはあなたたちの死体かもしれないのよ。次はあまり無茶しないこと。はい。今回の報酬ね!」

レイ
「はい。気をつけます.....え?!」

報酬はスペルドウルフ討伐と追加報酬、更に長を討伐として合計で150のシルバーと20銭だった。
そして薬草採取の報酬として4シルバーと10銭。

レイ
「お前ら!すげぇ!こんなあるぞ!」

ゾーイ
「こんなくれるのか」

クロエ
「綿飴と、棒付き飴と、ルナのミルクと....」

メル
「肉!肉!酒!肉!」

レイ
「節約なんてする必要ねぇな!」

ナーシャ
「無茶は!!!いけませんよ?」

レイ メル ゾーイ クロエ
「は....はい。」


国に入りすぐ冒険者ギルドまで転送したので歩いて宿まで行く事にした。

メル
「この1時間に1回しか転送出来ないのなんとかならないわけー?もうクタクタよ。」

クロエ
「ほら、文句言わない!まだ近い方だから行こう。」

ゾーイ
「なあ。」

ゾーイは海沿いにある酒場を見た。
決して綺麗とは言い難いが潮風に当たって朽ちたペンキの白が味を出し外には5席程の鉄でてきた机と椅子、室内までには窓もドアも全て全開にしており冒険者が大声で歌いながらエールを飲み踊っていた。
看板には<踊るキリ貝>の文字。

レイ
「お前の身体は酒で出来てんのか?!」

クロエ
「今日の打ち上げは踊るキリ貝!....貝って踊るの?」

レイ
「さあな、店の名前なんて思いつきだろ。夜はあそこに行こうか。」

メル
「よっしゃー!!!!」

一度4人は宿に戻り旅の荷物を置いた。


メル
「クロエ。帽子置いていくの?」

クロエ
「大きくて邪魔だもん。」

メル
「そうね。あ、クロエくしある?ちょっとこっちきて!」

ベッドに座りメルはクロエの長くて綺麗な赤い髪を昔から使ってたクシでとかしてくれた。

クロエ
「メル、ありがとう。」

メル
「クロエの赤くて長い髪は夕日のようだね。」

クロエ
「物心ついた時から毎朝ママにこの髪をとかしてくれてたんだ。そして毎日オレンジのように赤くて綺麗だねとかトマトのように美味しそうだねって言ってくれてたんだ。」

メル
「うん。」

クロエ
「夕陽のように赤くて綺麗だね。って言ってくれたのはメルで2人目だね。」

メル
「クロエはなんで冒険者になろうと思ったの?キール村でみんなの夢を語って乾杯したけどクロエだけ海を眺めて世界を見たいって....なんかまた別の理由もありそうだなって思って。」

クロエ
「うーん。」

レイ
「おーい。いくぞー。」

メル
「はーい!クロエ。あまり隠し事はなしだからね!」

クロエ
「う、うん。」


外は涼しく海は夜月で照らされて海沿いの酒場は多くの冒険者や採掘士で賑わっていた。


「おーい!こっちにもエールくれよ〜!」

「こっちも3つ追加なー!」

「はーい!!」

店の店主や娘は忙しなく酒を運んでいた。

店内は広く1階建で座るところも無く窓やドアを全開にしてもタバコの立ち込める煙が充満していた。

レイ
「座るとこねーな。」

ゾーイ
「やっぱ夜は多いなー。」

メル
「他捜す?」

クロエ
「私はどこでもいーけど....」

外に出て一服するキッチンのスタッフ

「悪いな。今日も席いっぱいなんだ。」

レイ
「あーいえ。他探しますよ。」

「お、待て待て。始まるぞ。」

ゾーイ
「何が?」

「まあ見てろって。」

店内で騒ぎ酔い潰れたドアーフ族の首根っこを掴み放り投げる姿。オーク族のように大きな図体でぽっちゃりした体型の女将さんだった。

「まーた酔い潰れてんのかい。とっとと帰んな。」

ドサッ
ドサッ
ドサッ
ドサッ

「おい、1席空いたぞ」

クロエ
「あ....あれいいの?!」

「なあに、日常茶飯事さ。ほら、来いよ。」

「女将さん、客だぞー」

女将
「見ない顔だね。まあ客なら大歓迎さ。ほら、座んな。」

席に誘導されたのはドア側の4人席で丸いテーブルの中央に大きな蝋燭が揺らめいていた。

メル
「ラッキーだね。」

女将
「何飲むんだい?」

ゾーイ
「エールで。」

レイ
「んじゃ俺も。」

クロエ
「蜂蜜酒のバテルありますか?」

女将
「あるよ。」

クロエ
「んじゃそれください!」

メル
「私もバテルください!」

女将
「エール2!バテル2!さっさと用意しな!」

さっさと働くスタッフに命令した。

女将
「何か食べる?」

レイ
「来たばかりなのでこの国の名物とか...まあおすすめでいいっすよ。」

女将
「それならいいもの作ってあげるから待ってなさい。」

ゾーイ
「あっ。」

クロエ
「どうしたのゾーイ?」

ゾーイ
「虫以外で。」

レイ ゾーイ メル
「頼みます.....。」

女将
「あはははははは。あんたら虫なんて食うのはリザードマン族かホビット族か物好きな人間だけだよ。」

レイ
「やっぱホビット族の主食って虫なんだな....」

女将
「先呑んどきな。」

4つの樽ジョッキが置かれた。

メル
「んじゃ、初任務を祝して....乾杯!」

レイ ゾーイ クロエ
「かんぱーーーい!!」

レイ
「ぷはぁー!うんめぇ!」

クロエ
(なんか冒険者になって呑んでばかりだな...)

メル
「女将さん!骨付き肉ってある?」

女将
「あるわよー!」

ゾーイ
「それにしてもクロエ、今日は凄かったな。いい判断だったぞ。」

メル
「リーダー交代かぁー?」

レイ
「俺がリーダーだ。」

クロエは一口蜂蜜酒を呑んだ。

クロエ
「私は補助強化魔法しか使えない。メルのように破壊魔法はあまり得意じゃないの。ただ....ただ、仲間を強化ならできる。」

レイ
「その強化魔法で俺らはこんな上手い酒が呑めるんだ。よくやったよ!お前は。」

女将
「あいよ。当店オススメのサマリア貝のオーブン焼きさ。肉は待っときな。」

掌サイズの貝が開いて一つ一つチーズをのしてオーブンで焼き、甘酸っぱいソースをかけた料理だった。


メル
「美味しそうー!」

クロエ
「貝だよ!貝!それにこんな大きい!」

ゾーイは豪快に貝殻をすすりながら貝を食べた。

ゾーイ
「まあ、バランスが悪いだの言われたがそうでもないんじゃねーの。前衛、後衛分かれてるしクロエは火でも放つかと思えば強化なんてできるし。」

レイ
「確かにな。」

女将
「あら、おちびさんはこれよ。」

ルナには小さなお皿にご飯にミルクがかかっていた。

クロエ
「よかったね!ルナ!」

ルナ
「にやぁ!」


「おい、聞いたか?今日の昼のやつ」

「あ、確か未探索の洞窟だろ?」

「なんたって俺らの採掘場の地下の穴だったみたいだぜ?」

「おいおいマジかよ。冒険者ギルドに任務提出したのか?」

「さあな。」

「この国は元々悪魔族が棲む国だからな!財宝の山が埋まってたりしてな!がははは」


横からドアーフ族の会話が聞こえた。


レイ
「おい。おい。聞いてんのかクロエ?」

クロエ
「ん?なになに?」

レイ
「明日は討伐、採取、時間が余れば他の任務も受けたいと思っているがいいか?」

クロエ
「う、うん!大丈夫だよ!」


店は4人だけになり店じまいするところだった。

女将
「毎度ありー!またきなよ!」

メル
「ありがとう!女将さん!また来るよ!」

ゾーイ
「くぅ〜。あー。」

レイ
「おい!しっかりしやがれ!!」

ゾーイは飲みつぶれレイの肩を借りて歩いていた。

クロエ
「先に宿行ってて!ちょっと寄りたい所があるの!」

レイ
「あまり遅くなるなよ。明日も早いんだ。」

クロエ
「分かってる〜!!」



女将
「いらっしゃい....おや、さっきの。忘れ物かい?」

クロエ
「女将さん、1杯奢るよ。」

女将
「私の店だよ。ほら、座んな。」

カウンターに女将とクロエは座り女将はエールを呑んでいた。

女将
「この子にバテル1杯ね。私の奢りだよ。」

クロエ
「え、いいよ!払うよ!!」

女将
「もう閉めたさ。閉めた店で呑む酒に金はいらんよ。で、聞きたいことあるんだろ?」

クロエ
「あ...うん。この国って元々悪魔族が棲んでいたの?」

女将
「もう何百年も前の話さ。このゴレアリア大国になる前さ。元々悪魔族のマーメイド族の故郷だったのよ。」

クロエ
「マーメイド族....?」

女将
「上半身は人間で下半身は魚のような種族さ。容姿はそりゃ綺麗だよ。海を自由に泳ぎ華麗な姿は海の女神とも呼ばれてる。」

クロエ
「女性なの?」

女将はタバコに火をつけた。
そしてフーッと煙を吐き頷いた。

女将
「『マーメイドよ、其方は嵐を呼ぶ。其方の歌声は綺麗で儚く大海原へ導く。マーメイドよ、悪魔よ。』これは海賊の唄でね。海賊には色んな唄があるけどこの唄だけは満月の夜に歌ってはならないって言われてる。まあ、悪魔かどうかも分からない架空の生き物なのに海賊ってのは今でもその決まりを守ってるんだよ。」

クロエ
「でも....滅んだんだよね....?」

女将
「滅んだか身を潜めたか分からんよ。」

クロエ
「どうしていなくなったの?」

女将
「今は伝説となった800年前の戦争は知ってるかい?1人の悪魔族の王と7人の王達の話を。」

クロエ
「昔聞いたことあるよ。その悪魔族の王は戦いに敗れた話。」

女将
「そう、敗れた。そしてもうこの過ちを犯さないように全世界の悪魔族やそれに関与する種族を全て殺した。戦争に参加していない悪魔族も子も女もね。」

クロエ
「マーメイド族は.....」

女将
「そう。この他に棲んでいたマーメイド族は戦争に参加をしていなかった。7人の王の1人、海賊王はマーメイド族を忌み嫌い憎んでいた。だから海賊王は真っ先に1人残らず殺しまくった。」


クロエは残念そうに蜂蜜酒を呑んだ。

女将
「酷い話だよ。その海賊王は人間族かどんな種族であっても恨まれて憎まれて呪いながら死んだだろうね、マーメイド族は。」

クロエの赤い色素の瞳から一粒の涙がこぼれ落ちた。

女将
「あんたは不思議な子だね。」

クロエ
「だって.....悪魔族だからって....」

女将
「そうやって泣いて悲しむ子は少ないだろうよ。」

クロエ
「どして.....?」

女将
「悪魔族だからだよ。死んで当然って思わせて何年も何十年も何百年もそうやって子孫に伝えられて今に至るのさ。」

女将は残ったエールをグイッと呑んで立ち上がった。

女将
「湿っぽくなっちまって悪いね。ほら、明日は任務だろ?さあ、帰りな?」

クロエ
「うん....」

店の外まで見送った女将は大きな身体で抱きしめてクロエを暖かく包み込んだ。

女将
「あんたはいい子だよ。うちは悪魔族がなんだろうがこの店に来たら客として酒を振る舞うがね。」

女将はニコッと笑った。

女将
「ほら、笑いな?あんたは笑顔が可愛い子だから笑わないと母ちゃんに叱られるよ。」

クロエは涙を拭いて笑った。

クロエ
「ありがとう。私はね、クロエってゆうの。クロエ=ナーヴァ。」

女将
「うちはアリ。アリとお呼び。」

クロエ
「アリ姉さん....アリ姉!」

アリ姉
「何でもいいさ。あはははは」

クロエ
「ありがとう。また来るよ!」

アリ姉
「うちは名前覚えるの苦手だがあんたの名前は覚えとくよ。ゆっくり休みな!」





クロエはお風呂に入り部屋で窓のスペースでメルの寝顔を見ながら手紙を書いた。

クロエ
(マーメイド族か....会ってみたいな。)
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