メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
いい時計を作りたい、という熱い思いと今まで積んできた豊かな経験を持って、私に時計作りを教えてくれる暖人はとにかく格好良かった。一つの作業が終わった時に見せる嬉しそうな笑顔は極上だった。

前、カルチャーセンターの講師になったらと提案したのを断られたけれど、教え方が上手だから勿体ないなと一瞬思った・・・でも、その気持ちはすぐに別の気持ちに上書きされた。

───他の人にもこんな風に教えるって思うと嫌だな・・・。

この気持ちの名前が『独占欲』でしかないことを私はわかっていた。

イベントから帰ってきてから私は卒論執筆もそこそこに恋愛を主なテーマとしたドラマを動画サイトで観たり、電子書籍の恋愛漫画やネット小説などを読み漁る日々を送っていた。

今までだったらもしこのような場面が作品の中で出てきてヒロインがやきもきしていても『仕事なんだからしょうがないと思うな。付き合っているわけでもないんだし。』とサラッと読み進んでいたと思う。でも恋を知ってしまった今は、その気持ちが痛いくらいにわかってしまう。

ぐにゃりと曲げたスプーンで冷たいアイスクリームをすくい、口の中に入れるとひんやりして気持ちいい。心も少し冷静になれたらいいのに。自分の心が熱いことに慣れていなくて日々戸惑っていた。

でもこの時はまだ、アイスクリームで冷やせそうなくらいの熱さだったのだ。この後とても想像できないくらいまで私の心は恋に熱せられ溶けていくことになる。

「何も曲げたスプーンで食わなくたっていいのに・・・そっち美味いか?」

「え?うん、美味しいよ。食べてみて。」

思考を巡らせていると暖人にそう言われて、無意識に自分が食べているミックスベリーアイスをスプーンでひと口すくって彼に差し出していた。
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