メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
───はっ!?私何してるの!?

空気がピキーンと凍ったのを感じる。アイスクリームよりもずっとカチンコチンだ。暖人も固まっている。

「あ・・・ああ、えっと・・・。」

私が手を伸ばしたままうろたえていると暖人は私の手からスプーンをもぎ取って自分の口に入れた。

「・・・美味いな。」

「よよ、よかった。」

「・・・。」

今度は彼が自分のオレンジアイスをスプーンですくって無言で差し出してきた。

「あ、ありがとう。」

私がスプーンを受け取ろうとすると、急にスプーンが口に飛び込んできた。

「んっ!?あっ、美味しい・・・。」

「・・・お前、ここに来い。」

暖人はそう言ってローテーブルと自分の体の間の空間を指差した。

「え?」

「二人羽織。この前は物足りなかったんだろ?アイスなら面白れーんじゃねーか?」

「あ、うん、そうだね・・・。」

───え、あそこに座るの?ホテルのテラスの時よりも、なんか・・・密、みたいな・・・。

「別に嫌ならいい。」

「い、嫌じゃないよ、喜んで!」

「ははっ、居酒屋店員かよ。わざと失敗して顔中ベッタベタにしてやるから覚悟しろ。」

───誰か助けて。暖人のいたずらっぽい笑顔が眩し過ぎてサングラスがほしいよ。

それから私は暖人の両脚の間に挟まって、彼がアイスを食べさせてくれた。何も羽織っていなかったから二人羽織と言えるのかどうかはわからないけれど。とにかく顔が熱くて顔面にアイスクリームを塗りたくりたいくらいだった。


暖人はバス停まで送ってくれた。数日後に時計作りの続きをする約束をしていたからまたすぐ会えるのに離れがたくて仕方がなかった。

バスに乗り窓の外を見ながら彼の言葉を思い出す。

───私にお酒で潰されたから、か・・・。

そんな理由でも私といたいと思ってくれたことが嬉しかった。お酒が強い体に産んでくれたお母さんに感謝する。

でも、その後彼が私にお酒で挑戦してくることはなかった。それが『もし自分が勝ってしまったら困るから。』という理由だったことを知るのはずっと先のことだ。
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