メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
今日もいつものように杏花が乗るバスが見えなくなるまで見送る。ふいにあのホテルのテラスで彼女に触れたい気持ちを抑えきれなくなった時のことを思い出した。

俺がオーダーメイドを受けることにひとしきり喜んだ後、彼女はクリームサンドが入っていた袋にクリームサンドの欠片が残っているのを発見し『こういうのっって得した気分になるよね。』と楽しそうに言って口に入れた。

しかしそれが変なところに入ったらしく激しくむせて涙目で『お水・・・。』と言いながら俺の羽織から出て部屋に戻っていった。

残念な気持ちも大きかったが手を出してしまわなかったことにホッとしたのだった。


予定が合う日に杏花が俺の家に来て二人で時計を作っていくのはすごく楽しくて、正直このまま完成しなければいいのにと思うくらいだった。

慣れない工具に不安そうな横顔も、真剣な眼差しも、上手く出来た時の嬉しそうな笑顔も、全てが愛おしかった。

俺といない時、彼女はどんな風に時間を過ごしているのだろう。誰と話して何に笑っているんだろう。

杏花は俺の家に来る時、例の花びらと時計のネックレスと雪うさぎの時計をいつもつけていた。

おかしなことに俺は自分の分身とも言えるその時計達に対して嫉妬みたいな気持ちを覚えていた。

こいつらは俺が杏花と一緒にいない時も彼女と一緒にいる。一緒に電車に乗り、大学やバイトに行っているかもしれないし、カフェで友達と話す時に彼女の首元や手元で時を刻んでいるのかもしれない。そして部屋で眠る彼女を見守っているのだろう。

───ああ、我ながらどうかしている。アブないやつだ。
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