メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「あいつをモデルに?」

電話の向こうの玲央に返した俺の声は、なんというか、すっ頓狂だった。

『そそ。ちょうど新作のモデル探してたんだよね。こないだのイベントで会ってビビッと来ちゃった。あの時撮った写真見るとますますあの子しか考えられなくて。あの子、三軒茶屋(さんちゃ)の雑貨屋でバイトしてて、親戚の子じゃないってレミに聞いたよ?しかも22歳なんでしょ?や~びっくりしたよ~。』

「いや、あの、それはだな・・・。」

(みな)まで言うな。『彼女』って言うとレミがキレるから嘘ついたんだろ。まーハルが嫌なら無理にとは言わないよ。嘘ついても守りたい彼女なんでしょ。ハル嘘つくの嫌いだし今までの彼女は隠したりしなかったじゃん。いやぁ、愛だねぇ。』

「・・・そんなんじゃねえ。親戚でもねーけど彼女でもねえ。」

『なら、あの子かしてよ。俺には彼女が必要なんだ。』

「だから、別に俺のじゃねーから。」

『もちろん交通費プラスギャラ出すからさぁ。人生経験の一つとしていいと思うよ~?』

「いや、どうかなぁ・・・あいつ変わってるから・・・。それにあいつ小さいから指輪のサイズとかなさそうだし、ピアスの穴も開いてないし。」

『そんなのどうにでもなるよ。』

「そんなの、ってことないんじゃね?重要なことじゃ・・・。」

『聞いてみてよ。頼む!あんなにイメージに合う子いないんだ。あ、作品の写真送るよ。それ見たらお前もあの子に似合いそうって思うと思う!』

「・・・わかったよ。」

『やった!サンキュウ!今度おごるから。』

「いらね。」

玲央が何か言っていたようだが一方的に電話を切った。気が進まない、と言うよりむしろ嫌だが断る権利はない。俺が一方的に想いを寄せているだけで俺とあいつは何でもない。それに色々な経験をした方が『何にも熱くなれない。』と悩むあいつの可能性を広げることになる。これは杏花にとってチャンスなのだ。それを俺の勝手で潰すわけにはいかない。
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