メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「・・・消えちゃったら寂しいな。」

「!?!?それって───。」

その時背中で人の気配がして慌てて振り返ると津村だった。

「あれ?暖人くん!?久しぶりだね。この間のイベントの時会えたら良かったんだけど、主催者側の対応とか来場してたマスコミから取材の申し込みがあったりして忙しくて。」

「・・・おう、元気そうだな。」

「玲央も玲美ちゃんも人遣い荒くて裏方の僕は毎日へとへとだけどね・・・。この場所、すごくいいでしょ。僕、会社泊まった時は朝いつもここに来るんだ。あれ、杏花ちゃん?」

こちらに近付いてきた津村は俺の陰に隠れていた杏花に気づいた。

「あ、そっか、暖人くんお迎えに来たんだね。杏花ちゃんお疲れ様。大変だったね。お陰ですごくいい写真撮れたよ。本当にありがとう。」

「ううん。楽しかったです。」

「朝ごはん買ってきたんだ。中華まん食べる?・・・?」

買い物袋を持ち上げて更にこちらに近付いてきた津村は、ふいに杏花の顔より下の方に目線を移した。ハッとして急いで彼女の洋服で肌を隠したがそのせいで奴は感づいたらしい。圧が強過ぎる玲央と玲美も苦手だが、こいつも苦手だ。眼鏡の奥の何でも見透かしていそうな目は俺の鋭い目とは違う意味での怖さがあると思う。

「ふーん・・・そうか。邪魔しちゃって申し訳なかったね。」

「いやっ、俺達は別に・・・。」

「玲央達には何も言わないから安心して。杏花ちゃん、肉まんとあんまんとカレーまんとピザまん、どれがいい?どれでもいいよ。どうせあいつら寝てるだろうから冷めちゃって温め直すことになるし。僕が熱々食べたかったから買ってきたんだ。あいつらにせめてもの嫌がらせ。」

津村はいたずらっぽく笑うと『じゃあ・・・あんまんがいいな。』と言う杏花に白いビニールの袋を一つ渡す。ちょうど今あんまんの話をしていたところだ。

「二人で仲良く食べてね。」

津村はそう言ってウインクする。イケメンにしか許されない必殺技だ。玲央とは違う教科で高い顔面偏差値を叩き出していそうなこいつも乙女ゲームに出て来そうだ。

幸い杏花はホカホカと湯気を立てるあんまんを眺めるのに夢中で、キラキラしたそのウインクは彼女に届くことなく朝日に溶けて消えた。
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