メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
あれは打ち合わせに行った日だから火曜日、変わったやつだなと思った。あんなに自然に見知らぬ人間に親切に出来るものだろうか。しかも俺みたいな見た目怖いやつに。たくさんの愛情を注がれ大切に育てられているのかもしれないと思った。

───顔は一瞬だけ見たけど、あの時は打ち合わせのことで頭が一杯でこんな雰囲気のやつだって気づかなかった。とっさに名刺を渡したんだよな。俺、何であんなことしたんだろ。

「あの時は本当にありがとう。助かった。大事な打ち合わせがあって・・・。」

「お役に立てて良かった。」

今度は子供らしく『へへっ。』と照れたように笑う。

「でも悪いな。オーダーメイドはやってない。俺は自分が作りたいものを作りたいから。人に言われて作ると・・・こう、感性が鈍る感じがするんだ。納得のいくものは作れない。自分の作品として認められないんだよな。」

いくら子供相手とはいえ、随分アーティストぶったことを言ってしまったと後悔する。でも彼女は俺のそんな戯言(たわごと)を興味深そうに聞いていた。

「残念だなぁ。今度幼馴染みのお姉さんが結婚するんです。それでずっとプレゼント探してて、やっと見つけたと思ったのに。物語を奏でる時計。」

「『物語を奏でる時計』!?」

最後の言葉が心に刺さった。
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