メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「杏花ちゃん見て。この前来た強烈な彼女、この雑誌に載ってるよ。」

店内にお客さんがいない間商品の陳列を整えていた私に、カフェスペースに置いてある雑誌を新しいものに入れ替えていた店長が声をかけてきた。彼が広げて見せてきた雑貨関係の雑誌には、玲美さんがアーティスト名Remiとして載っていた。芸能人のように圧倒的な存在感だ。

「本当だ。とても綺麗で人を惹き付ける人ですよね。作品も他にはないようなものでとても素敵だし。彼女も彼女の作品もずっと眺めていられそう。」

「・・・確かにすごく綺麗だけど・・・なんか、バラみたいにトゲがある人だよね・・・あの時ここで杏花ちゃんのことあんな風に言われて俺・・・思わず割って入っちゃったし・・・。」

いつも穏やかな店長が表情を固くしたのに驚く。

「え?聞いてたんですか?」

「うん。彼女、ステンドグラスが特集された美術雑誌を熱心に見てたから、ステンドグラスクッキーも好きかもってとっさに思ってお皿に乗せて出したんだ。それで彼女から杏花ちゃんを離したかったから、特に裏に用はないのに、『裏行くからレジお願い。』って声かけたんだよね。」

「そうだったんだ・・・。ありがとうございました。でも彼女、言葉は強い感じですけど、怖い人じゃないんですよ。プロって感じですごく格好いいし。」

昨晩から今朝にかけての撮影の時、メイクや衣装、光の当たり具合、私の手の角度や表情など、玲美さんは一切妥協せず、1つのカットを何度も取り直した。彼女が自分のアクセサリーに注ぐ情熱の炎は彼女をますます魅力的に(いろど)った。それに答えられるように私も全力を尽くしたつもりだ。

「うーん、クリエイターとしてはすごい人なんだろうけどね・・・杏花ちゃんがあのトゲでグサグサ刺されてるのはどうしても我慢ならなくて。」

店長はまだ気持ちが収まらない様子だ。
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