メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
ちょうど一年ほど前にこの店の店長に就任した彼は、とにかく穏やかで優しい人だ。ゆったりとした雰囲気で周囲に安心感を与えてくれる。

私より6歳年上の28歳───暖人と同学年───だが童顔で肌がツルツルで目がキラキラしていて、ダークブラウンの髪の前髪も下ろしているからかまるで10代の少年のように見える。身長も高い方ではなく───暖人より10cmくらい低いだろうか───私が隣に並んでも他の男性より顔が近くて程よい身長差な気がする。イケメン俳優というよりは、歌って踊る男性アイドルみたいな雰囲気だ。

その外見の一方、全てを包み込むような大人の余裕があって、その柔らかな眼差しがお店の雰囲気を心地良いものにしてくれていた。

アルバイトとはいえ私の方がこのお店に長くいるので、店長がこのお店に来た時に細かい事を教えている時もまるでアルバイトの後輩かのように低姿勢で聞いてくれた。でも質問してくる内容が鋭く、いかにも店長という感じでその見た目とギャップがあった。

レジで商品を手渡しながらお客様に雑貨の取り扱い方法等を説明をする時もそうだった。大勢の前でプレゼンをするように明確でわかりやすい言葉を男性にしては高めの声で紡いでいく。お客様が店長に見惚れているのを隣で何度も見てきた。

私は全然気がつかなかったけれど、社員の竹中さん───男性スタッフは店長と彼だけだ───いわく、店長目当てにこの店に来るようになったお客様も結構いらっしゃるらしい。確かに常連さんが増えたなとは思っていたけれど。でもそれも納得だった。店長が来てから売り上げが大幅に上がったのは店長のお店作りが素晴らしいからだけではなく、彼自身の魅力も大いに貢献していたのだ。
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