メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
あくまでも時計制作の依頼を受けているだけだと思おう。これはビジネスで杏花は客だ。

それに例えこの事実がなくても俺は彼女の隣にいるべきではない。俺は杏花といると幸せだ。一人の男としてもクリエイターとしてもそう思う。

でも彼女が俺といてプラスになることがあるだろうか。社会人としてアドバイス出来ることも大してない、稼ぎも多くない、玲央や津村のようなイケメンでもなく、面白いことも甘い台詞も言えない。乙女ゲームには絶対に登場しないだろう。

クリエイターとしてもまだまだだ。ハコイリギフトと契約できたからといって、いい作品を作り続けられなければ契約も切られるだろう。一人前になる為に必死でやっていかなくてはならない状況は今までと何ら変わっていない。

例え今杏花が俺に何らかの気持ちを抱いてくれているとしても一時的なことだろう。世の中は俺よりも彼女にふさわしい男で溢れている。今だって俺の他にも彼女に想いを寄せている男がきっといる。

一緒にいたいと思うのは俺のエゴでしかなく、杏花のことを想うなら身を引くべきだ───俺は彼女と離れる決心をした。

本当はその決心こそがエゴなのに、未熟過ぎる俺はそれに気づくことが出来ずに結果大切な人を傷つけてしまうことになるのだった。
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