メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
家にいると杏花のことを思い出して悶々としてしまうので、居酒屋でしこたま飲んだのに全く酔えなかった。

今日は月末という認識しかなかったがハロウィンだったらしく、街にも飲みに行った居酒屋にも仮装して騒いでいるおめでたいやつらがたくさんいて写真や動画を撮影したりしており、全く落ち着いて飲めなかったからだ。

仕方ないから家で飲もう───そう思って遅くまで営業しているスーパーで半額になっている惣菜を買ったら、そこにまでハロウィンのカボチャのシールが貼られていて舌打ちしたくなった。なんだその三角形の目と鼻にギザギザした口角の上がった口は。人の神経を逆撫でするふざけた顔しやがって。

虚しい気持ちを引きずってマンションのエントランスに入ると小さな声が聞こえた。

「はるひと・・・?」

「うおっ!」

当の杏花がしゃがみ込んでいた。魔女の仮装をして動物のオブジェ達の中に馴染んでいたので声をかけられるまで気づかなかった。

「急に来たりしてごめんね・・・あっ!」

彼女は立ち上がろうとしてころん、と転んでしまう。ずっとしゃがんでいて足がしびれたのか。そんなに長く俺を待ってくれていたのだろうか。

「・・・仕方ねえな。」

言葉とは裏腹に心は引くくらい弾んでいた。杏花に近寄り素早く抱き上げると彼女は顔を赤らめて『!?ねぇっ・・・。』となんとも可愛らしい声をあげながら俺の腕の中でもぞもぞと抵抗をした。外であまり(あお)らないでほしい。

「夜遅いんだから静かにしろよ。騒いだらその口塞いでやる。今両手塞がってるから・・・唇でな。」

「!?!?」

固まってしまった彼女の耳元で『よくできました。』と(ささや)いてから奥の扉に入り、そのままエレベーターに乗った。
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