メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
毎回時計制作の後に二人で食べるおやつを持っていっていたけれど昨日は最後なので白金のケーキ屋さんで売っている『幻のフルーツタルト』にした。

仕入れたフルーツが全種類完璧な状態でないとお店に並ばないというこだわりの一品で、開店前に購入整理券をもらう為に並んでも整理券がわずかしか配られなかったり、最悪配られないこともある。テレビや動画サイト、SNS等で話題を呼び、海外からわざわざ買いに来る人までいるらしい。

こういう場合、過度に期待し過ぎて期待外れになるパターンもあるが、以前家に来たお客様がお土産に持ってきてくださったこのタルトは予想を遥かに超える美味しさだった。どうしても暖人と一緒に食べたくて、苦手な早起きをして初めて行く街である白金にドキドキしながら向かった私は奇跡的に最後の一枚の整理券をゲットすることが出来て、二人で半分こして食べることが出来たのだ。

主役のフルーツだけでなくカスタードクリームもタルト生地も今までのフルーツタルトの概念を全て(くつがえ)すくらい美味しくて『幻』と呼ばれるのに相応しい究極のフルーツタルトだった。暖人も感動してすごく喜んでくれた。

私にとってこのフルーツタルトのように極上だった暖人との時間はそれこそまるで幻みたいだけれど、このタルトが実在するのと同じように確かにそこにあった。

どっしりとしたタルト生地のように、彼と一緒にいるといつでも幸せ、という安心感があり、その上にぎっしりと並ぶ完璧に美味しい状態のフルーツ達のように彼との思い出はどれも素晴らしいものばかりだ。

そして暖人にとって私が通りすがりの存在だったとしても、私が彼のことを忘れることはない。私の心の中に初めて芽生えた本気の恋の花は思い出の中でずっと生き生きと咲き続ける。

あとは私が暖人への恋心を思い出にするだけだった。
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