メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「玲央の言うこともわかるけど、僕は暖人(はるひと)くんの気持ちわかるな。彼女のことを深く想っているからこそ気持ちを伝えられない。悲しいことだけど僕らにはもう学生の頃みたいな『好きだから一緒にいる』っていう単純で純粋な恋愛を始めるのは難しいんだよ。」

沈黙した俺に替わるように津村が話し出した。

「え~?そうなの?確かに俺とアカネは学生の頃からだけど。」

玲央のその発言に驚き、飲もうとしていたワインを思わずテーブルに戻す。

「アカネ!?ガラス工芸専攻してた?お前まだあいつと付き合ってんの!?」

「そうそう。俺って見た目通り一途でしょ。」

「いや、意外でしかねーよ。」

「え~ひどいなぁ。」

言葉とは裏腹にケラケラと楽しそうに笑う玲央の隣で津村は空いた皿をテーブルの端に寄せながら心から感心しているような口調で言う。

「彼女、すごいよね。学内のコンクールではいつも玲央と玲美ちゃんどちらかの次で銅賞だったでしょ?なのに警察官目指して本当になっちゃったもんね。」

「そうなのか!?確かに路駐してる先輩に注意したりとか、正義感強いやつだったけど。もったいないな、あれだけの腕があったのに。」

俺がそう言うと玲央はジュースをかき回すのを辞めて腕を組んだ。

「まぁ、そういう未来もあるんだよね。アカネが師事してた教授は必死で止めてたけど、アカネの親ももちろん俺も止めなかったよ。アカネはさ、『芸術をビジネスにしたくない』っていう考えなわけ。予算とか期限とかそういうの考えたら妥協することになって本当に作りたいもんが作れないってさ。まあ、警察官としてはあんまり評価よくないみたいで、周りは正直、ガラス工芸の道に進んだ方が活躍できるのにって思ってる。どっかの工房に弟子入りして修行積めばいずれ独立出来るって。」

「お前は思いっきりビジネスにしてるけど、あいつはそれでいいのか?」

「それはそれ。俺達の間では仕事と恋愛は別なの。」

玲央はそこで人を優しく包み込むような微笑みを浮かべた。彼女のことを想っているのだろう。こいつもこんな顔をするんだなと驚くと同時に不覚にも見惚れてしまった。
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