メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「同じ人は一人もいない。だから同じ恋も一つもない。恋愛は唯一無二の物質同士が起こす未知の化学反応みたいなものなんだと思うの。前の恋人と上手くいかなかったからって必ずしも恋愛下手とは言えない。その人と合わなかっただけかもしれない。反省点があるなら次に生かせばいい。人は成長するものだから。」

「・・・。」

「実際に混ぜてみないとどんな化学反応が起こるかはわからない・・・だから杏ちゃんも彼に気持ちをぶつけてみたらどうかな?私は彼も杏ちゃんのこと好きなんじゃないかって思うよ。」

理学部化学科出身の爽ちゃんらしい考えだと思った。彼女に相談するのは初めてだから、こうやって諭されるのも初めてだ。

「・・・もし、暖人が私のこと想っていてくれたとしても、彼は時計に全てをかけることを決めたんだよ。」

「でも、もしもサヨナラしちゃうにしても、気持ちを伝えないままじゃずっと吹っ切れないんじゃないかな・・・。」

爽ちゃんの言うことはきっと正しい。暖人の私に対する気持ちがどうあれ、抱えきれないくらいに育ってしまった自分の気持ちを伝えるべきなんだろう。勇気を出してこの恋心を暖人に差し出してみて、彼が受け取らなかったらその時こそ本当にこの気持ちとサヨナラする時だ。

好きという気持ちを伝えずに無理矢理しまい込む。それは心にすごく負荷がかかることだ。もし私がAIだったら、負荷のかからない最適な方法を迷わず選択するだろう。だけど人の心というのは複雑で、正しいとわかっていても必ずしもそちらを選ぶとは限らない。

「それでも、私はその気持ちを抱えて行こうと思ってる・・・心の片隅に封印して、だけど。」

「杏ちゃん・・・。」

爽ちゃんの目にまた涙が浮かんできたので『やっぱりお酒頼もうっと。新年だし、酒始めしなきゃ。』とドリンクメニューを広げた。

この日、いつもの半分も飲んでいないのに私は初めてお酒を飲んで具合が悪くなってしまった。爽ちゃんが私の家に連絡してくれて、お父さんが車で迎えに来てくれた。

初詣では暖人の夢の成就と家族や友達の健康を祈願した。それさえ叶ったら他に望むことはない・・・そう思いたかった。
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