メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
───これでやっと彼女のことを吹っ切って時計に集中できる。誕生日に新しいスタートを切る。なかなかいい日になったじゃないか。

赤やピンクのハートの飾りがふんだんにデコレーションされたケーキ屋のショーウィンドウに映る世界一情けない顔をした自分にそう言い聞かせる。

───本当にこれでいいのか?

心の奥から悪魔が問いかけてくる。お前、まだいたのか。とことん憎たらしいやつめ。

───いいわけないだろ。そんなことわかってる。

それでも自分の気持ちを置き去りにして俺は前に進むと決めたんだ。

俺の心の中の猛獣は雪に埋まってマンモスみたいに氷漬けになってしまえばいい。いつか遥か未来に発掘された時、未来人達に『なんて臆病な猛獣だ。』と笑われても構わない。むしろ笑ってくれ。

自分自身に対して無駄に意地を張っている自覚はあった。けれど人生、そうでもしないと前に進めない時もあるんだ。

───でもさ、お前全然前に進めてないじゃん。恋心封印できてないし。

悪魔が突っ込んでくる。うるさい。進めてはいないけれど、必死でもがいているところだ。きっとそのうち踏み出せる時が来る。

雨と違い、雪は音もなく降り続いて静かに街を白く染めていく。でも東京では雪が降っても1~2日で溶けてなくなってしまう。俺の恋は東京の雪景色のように一瞬のものだった。

童話の中に入ってしまっていたかのような夢の時間は短く儚いものだったけれど、大きな幸福感と失ったことによる強烈な痛みの両方を俺の胸に残していった。
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