メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
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「にしても高園さんはめちゃくちゃすごいっすよね!その若さでGL(ジーエル)でしょ。前代未聞!」

キャンプ場に向かう車の後部座席で竹中さんが興奮して言った。隣に座る彼女の莉那(りな)さんも『ほんと!』と同調する。彼女はスポーティーでサバサバとした美人で、こんな人がハロウィンの夜スタッフルームであんな風になっていたなんて・・・と思い出すとドギマギしてしまう。

「あの、GLって・・・?」

Group(グループ) Leader(リーダー)の略だよ。MG(エムジー)Manager(マネージャー)で部長っていう意味で、その下だからGLは課長ってこと。GLの下にTL(ティーエル)Team(チーム) Leader(リーダー)───係長───がいるって感じ。」

莉那さんが説明してくれると、竹中さんは目をキラキラさせて語りだした。

「高園さんは俺の行ってた大学の伝説の先輩なんだよ。成績優秀でミスターコンでは殿堂入り、学生からも教授からも事務員さんからも食堂や掃除のおじちゃんおばちゃんからも人望厚くて。アウトドアサークルで俺が一年の時、高園さんが三年で部長やっててその時から憧れでさぁ。就活の時、高園さんと一緒に働きたい!って思ってこの会社受けて。まさかそれで本当に同じ店で働けるなんてさ。」

「その話、何回も聞いたよ、耳タコ。杏花ちゃんも聞かされたでしょ?」

莉那さんに言われ助手席から『あはは。』と苦笑してみる。

「でも寂しくなるなぁ。杏花ちゃんがバイト卒業しちゃって高園さんが本社行っちゃうでしょ。高園さんファンの女子小学生からおばあちゃんも寂しがるでしょうね。高園さんがシフト入ってる日と入ってない日で全然売り上げ違うんだもんな。」

つい先日、店長が4月末で店舗から本社に異動になることを聞いた。前任者の体調不良で急遽決まった人事らしい。
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