メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「え??だって私達は何も・・・二人羽織のこと?」

「「二人羽織って!?」」

杏花の言葉に両親がすっ頓狂な声を挙げた。

「そうじゃなくて、夜、寝てる時に・・・。」

『キス』という単語を口に出すのを躊躇(ためら)っていると、杏花は頬を一瞬で真っ赤に染めた。

「え!?私が寝てる暖人にキスした時、起きてたの!?」

「え!?何だそれ!?」

初耳だった。あの時杏花も俺に、この唇に触れてくれたというのか?彼女のいつもより小さめに作られた唇をじっと見つめる。ご両親の前だというのに心の奥から想いが飛び出してきて彼女を抱きしめてしまいそうだ。

「・・・杏花、ちゃんと話してきなさい。」

「お父さん!?」

「だいたいわかる。お父さんだって、本気で人を好きになったことがあるから・・・いや、今も好きだから。」

葉吉社長が娘同様頬を赤くして彩木さんの方を見ると、彼女の頬も同じ色になった。家族3人揃って真っ赤で、お祭りの屋台に並んでいるりんご飴のようだ。

「暖人さんの腕時計と・・・ネックレスにつけてた時計チャームもそうだよね?それをするようになってから、杏花は眩しいくらい楽しそうで、お母さんすごく嬉しかったの。」

「そうだったんだ・・・。」

「暖人さん、よろしくお願いしますね。」

彩木さんは杏花に微笑みかけると俺に会釈をして傍らに立てていたキャリーケースを持ち直し、社長と共に去る姿勢になった。

「でも、俺・・・自分はご両親にもお話を・・・。」

「・・・悪いけど、我々はこれから海外に出張なんだ。衣緒、スウェーデン支社の今城(いまぎ)さんがその・・・えーと、あ、け、化粧品だかなんだか、買ってきてくれって言ってたよな?」

「え?・・・あ、ああ、うん、そうだね!買いに行かなくちゃね!」

二人とも声が上擦り目が泳いでいる。なんて嘘をつくのが下手なご夫婦だろう。

「そういうことだから、我々は帰ったらまた改めて聞く。今日は二人でゆっくり話しなさい。」

「素敵な時間を過ごしてね。」

二人はそう言って落ち着きのない様子で去っていった。
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