メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「もちろん夢のためだけじゃないよ。ただ、一緒にいたい・・・。」

「もう絶対に離さない。」

言い終わる前に強く抱きしめられた。暖人の全身から想いが溢れて自分に浸透していくようだ。

そこで『ヒュウ♪』と口笛が鳴った。なんだろう、と思って周りを見回すとたくさんの視線が自分達に注がれていることに気がついた。そう言えばここは大学だった。

「・・・俺の家に行こうか。」

かああ、と顔に熱が集まってきた私を暖人は自分の体で隠すようにして呟き、頷いた私の頭を一瞬だけ優しく撫でてくれた。


暖人に断って店長に連絡をする。昨日お母さんと話した後電話で『卒業式の後は大事な予定があるのでごめんなさい。』と彼のお誘いをお断りしたが、『袴姿の写真だけでも送ってほしいな。』と言われていたのだ。友達と撮った写真をトリミングして送るとすぐに既読になり『卒業おめでとう。想像以上に可愛くて綺麗で眼福です。今誰といるのかは聞かないけど、杏花ちゃんのこれからの幸せを願っています。』というメッセージと『おめでとう!』と書かれた花束のスタンプが送られてきた。『ありがとうございます。』とお辞儀をしているおじぎ草のスタンプを返した。


大学を出て少し離れてから暖人が手を繋いでくれた。ガサガサで冷たくて厚みがあって大きな手。触れたら心が落ち着いて力が湧いてくるような不思議な手。私もこの手をもう絶対に離さない。

絡まった指の一本一本に力を入れて握り返し彼を見上げる。目が合うと今日の陽射しのように暖かく微笑んでくれた。
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