メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「実はな・・・。」

なんだか引っ掛かる言い方だが、玲央には話を聞いてもらったし、アトリエに行った時に杏花に触れることが出来たのもこいつの挑発のお陰とも言える。一応彼女とのことを報告しておこうと思ったが、奴は聞く耳持ちやしなかった。

「会場どこにしようかなぁ?お色直し何回しよう?音楽も料理も引き出物も俺達らしい、派手でどこにもないようなやつにしたいし・・・それよりエンゲージリングも作んなきゃ!うわっ!結婚式まで3年くらいかかっちゃうかもぉ!」

「そもそも彼女がプロポーズを受けないという考えはないんだな・・・うらやましいよ。」

そんな俺の突っ込みももちろん奴の耳には届かない。なんて都合のいい耳なのか。まぁ、届いたところで答えは予想できる。

「ハル!結婚式の受付やってよね!」

「はぁ!?何で俺が・・・。」

「アタシ達、友達でしょぉ~。」

「・・・しょうがねぇな。」

不本意だがいつのまにかこいつと俺は友達になっていたようだ。

「あ、これ、食べてよ。店の人に無理言ってホールサイズで出してもらって、やけ食いしてたんだけどさ、もう気持ち落ち着いたし。」

目の前にあるホールサイズのザッハトルテ風チョコレートケーキを手で指し示される。

───ザッハトルテ・・・あんずジャムを使ったチョコレートケーキ・・・あんず・・・(あんず)・・・杏花・・・。

先程別れたばかりなのに心も体も彼女を求める気持ちでいっぱいになる。まるで禁断症状だ。俺はもはや杏花中毒(キョーカホリック)なのであろう。

彼女への気持ちをケーキにぶつけるようにがつがつと食べる俺を見て玲央は『あら、お兄さんいけるクチね。』などと言ってタブレットで何かを調べ始めた。結婚に関する何かだろう。

───結婚、か・・・。

何故だか『始まったばかりの俺達にはまだまだ考えられない。』という話でもないような気がした。
< 259 / 290 >

この作品をシェア

pagetop