メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「俺さ、店開く準備を始めようと思ってる。」

「本当!?」

「それで・・・本当は店がうまくいってから言うべきなんだろうけど・・・。」

「うん?」

「今俺達はそれぞれが1つの時計で隣に並んでいる状態だ。でも俺はお前と1つの時計になりたい。二人じゃないと刻めない時を刻んでいきたいんだ・・・つまり・・・。」

「つまり?」

「杏花、俺と結婚してくれ。」

「えっ・・・。」

彼女は固まってしまった。まだ時期尚早だったのだろうか。でも、もうこの気持ちを抑えられない。とにかくこの気持ちを最後まで伝えるんだ。

「受賞した勢いで言ってるわけじゃない。去年の卒業式の後想いが通じ合った時から考えていたことなんだ。俺はまだまだだけど杏花のこと絶対に幸せにするって誓う。お前の親とか神とか誰の前ででも誓う。お前が望むなら動画サイトに動画上げてで全世界に誓ってもいい。」

「暖人・・・。」

「俺は結婚して、お前の未来に責任を持ちたいと思ってる。でももちろん、お前がこのままがいいって言うならそれでいい。恋人なら俺と別れたくなったらいつでもすぐ別れられる。俺とのことはなかったことに出来る。」

その言葉に俺と彼女の間にあった穏やかな空気が緊張感のあるものに変わった。

やってしまった、杏花のことを考えて言った言葉だったが、どうやら彼女の逆鱗(げきりん)に触れてしまったらしい。

付き合うにつれわかってきたことがある。杏花は普段ほんわかしているが、ごくまれにパウンドケーキの表面が割れるみたいに気持ちが弾ける時があるのだ。

「悪い・・・うわっ!」

謝りかけた俺は足をお湯につけたまま後ろに倒れた、というか倒された。
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