メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
授賞式が終わり、屋上に来た。ここは葉吉社長と彩木さんが中心となって構想した素晴らしい空中庭園になっている。四季それぞれの花が咲き乱れ、足湯まであり、ドラマの撮影でもよく使われているそうだ。

「スーツなんて何年も着てなかったから、窮屈で仕方なかったよ。革靴も。」

今日はぽかぽかと暖かい日だった。茂みに囲まれた足湯に浸かってライトグレーのスーツの上着を脱いで白シャツ姿になり、アクアブルーのネクタイを緩めながら言うと隣で足を浸けている杏花が俺をじっと見つめて『すごくかっこいいのに。惚れ直しちゃった。』と言った。

社会人になってから心配になるくらい急激に色気を増した彼女の眼差しにドギマギしてしまう。

以前は眉と目の間の長さで真っ直ぐに切り揃えられていた厚めの前髪は少し伸ばしてすいてから斜めに流していて、胸下まであった髪は胸より上の長さになっていた。きっちりとするようになった化粧とあどけないすっぴんのギャップもたまらない。

一年前は痩せてしまっていた体も元に戻り・・・いや、太ったわけではないが以前よりも女性らしくなった。元々色気があったというのに。

触れ合う時、最初の固い感じも可愛らしかったが、少しずつ積極的に挑戦しようとする彼女が健気で愛おしくてたまらなかった。彼女が放つ砂糖のような香りはより芳醇(ほうじゅん)なものになった。香りも体も声も動きもどんどん俺好みになっていく彼女と夢中で絡まり合ってとろけるような甘い甘い時間を過ごした。

今日のライトグレーのスカートスーツにアクアブルーのシャツ───俺のコーディネートに合わせてくれたものだ───もよく似合っている。仕事に出かける時もふわりとした長いスカートばかりなので、タイトな膝丈スカートを履くのは珍しい。しかも足湯だから生足である・・・いい、すごくいい・・・今日帰ったらお互いスーツでオフィスラブ的な感じで・・・思わず顔がにやけてしまいそうになる。

いや、その前に超重要な案件を済ませなければ。

───よし。言うぞ。今日言うって決めたんだ。
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