メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
浴室から出てリビングに戻った私の姿を見て暖人は『ぷっ!』と吹き出した。

「あはは!出オチ狙ったのかよ。」

「え?あ?これ?」

私は髪の毛と顔にネイビーのバスタオルを巻いて隠し、目だけが見えている状態だった。女忍者、くの(いち)みたいな感じだ。

「いつもお風呂上がりこうだから癖で。ちなみにお母さんもやるよ。お父さんいつもこれ見て喜ぶの。」

「はは、どんな親子だよ。」

目を細めて笑う。タオルを外してその顔をじっと見た・・・というか見とれた。なんて可愛らしい笑顔なんだろう。昨夜見せた攻撃的な表情とのギャップでより印象的に見えて目が離せない。

私の視線に気づいた彼はハッとしたように笑いを止めると、私のおでこに触れた。

「・・・デコ出すと雰囲気変わるんだな。」

じっと見てくる視線の温度が上がったように感じたのは気のせいか。

「お前って・・・本当に、そんな顔して、結構・・・。」

そう言うと彼は顔を近づけて来たけれど、胸に触れた時同様ひどく焦った表情になって慌てて離れた。私の頭にバスタオルをかけて何かを振り払うかのように乱暴にぐしゃぐしゃとする。

「早く髪、乾かしてこいよ。今日涼しいし風邪引くから。」

「うん・・・。」

立ち上がって洗面所に行く。隣のお風呂のドアは開けてあったので全身鏡に自分の姿が映っている。彼に触れられた足や胸やおでこや頭に目がいってしまう。昨日布団で手首も捕まれた。どこにも何の(あと)もない。なのにまだ彼が触れた部分と心にほんのりと温かい余韻が残っているように感じた。
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