メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
───この女性(ひと)は一体何歳なのだろう。

目の前に立っているふんわりとした雰囲気の女性───彩木衣緒(あやきいお)さん───が、公園のハンドメイドマーケットで初めて俺の店に来た時、くれた名刺には『株式会社ハコイリギフト』という有名な会社の名前と、結構な肩書きが書いてあった。その名刺と彼女の外見を信じられない気持ちで比べたものだ。

ギフト商品の制作・販売をしているハコイリギフトは最初は社長の自宅から始まった小さな会社だったらしい。そのうち、マンションの一室、ビジネスビルのワンフロア、そのビルの2フロアと拡大していき、今や都心に立派な自社ビルを持つ一流企業だ。関西を始め日本国内にいくつか支社や工場、店舗があって、海外にも進出している。

「弊社と契約してくださるお気持ちになってくださり、本当にありがとうございます。」

彩木さんは深々とお辞儀をして言った。偉い人なのにとにかく腰が低い。

前回初めてこの会社を訪れた時もそうだったが、受付の人に名前を伝えると、アシスタントの人が迎えに来て会議室まで案内してくれるのだとばかり思っていたのに、彼女自らが迎えに来てくれた。お茶も彼女が急須や湯呑みを運んできて入れてくれた。

茶道とかでもないのに、お茶を入れるそのゆったりとした仕草に目を奪われてしまった。でも俺がじっと見ていたからなのか元々不器用なのかはわからないが、彼女は盛大にお茶をこぼした。一緒に後始末をしながら、緊張していた気持ちが和んで、自分の想いをありのまま話すことが出来たのだった。

「いや、その、何度も店来てもらって・・・。」

恐縮して言う。俺の作品をハコイリギフトで販売したい───彼女は初めて俺の店に来た日にそう言った。
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