メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
エレベーターまで見送りに来てくれた彩木さんと話す。

「暖人さんは今度の展示場でのイベントには出店されるんですか?」

「あ、はい。」

「うちの娘も初めて出るんですよ。出店経験のあるお友達が一緒に出てくれるみたいで。ずっと前から出たいって思ってたみたい。自分の気持ちをあまり言わない子なので。」

「え、そんな大きな娘さん、いらっしゃるんですか!?」

思わず大きな声が出てしまった。出店可能な年齢は18歳以上だった。彼女の年齢を考えたらその年齢の子供がいてもおかしいことではないのに見た目が見た目なので思わずそんなことを言ってしまった。

「お上手ですね。暖人さん。」

そのはにかんだ顔を最近どこかで見た気がした。どこだろう?そうだ、マンションの下のカフェの庭であいつが俺の胸に飛び込んできて俺を見上げた時の顔によく似ている。

ハッとして改めて彼女を見下ろす。あいつほどではないが小柄な体、滑らかな肌、黒目がちな瞳、小動物っぽい顔、そしてハンドメイドと思われるアクセサリー。何より時空を歪めてそうな、年齢とかけ離れた外見。

───まさかな。

もし、これから仕事でお世話になるこの人と杏花が親子だったりしたらかなりまずい。出会ってすぐ家に連れ込んで、壁際に追い込んだり、かなり接近して匂いを嗅いだり、隣で寝て覆い被さったり───胸に触れたことや俺の胸に飛び込んできたことは不可抗力だとしても───思えば結構なことをしてしまった。

でも、イベントに出店を申し込む為に聞いたあいつの苗字は確か、『葉吉(はよし)』だった。他人の空似ってあるんだな。

この時の俺は彩木さんが職場では旧姓を使っているなんて、そんな単純なことも思いつかなかったのだった。
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