メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「暖人はずっと時計職人になりたかったの?」

思考が深い森に迷い込んでしまいそうで、慌てて引き返すように彼に質問をした。

「俺の家は母子家庭で、母親はたくさん働いて俺と弟を育ててくれた。やりたくない仕事もしていた母親は俺達が小さい頃から『あなた達には好きなことを仕事にしてほしい。』って言ってた。俺は時計が好きだったし、母親への恩返しの気持ちもあって大手の時計メーカーに就職した。でも、上司とぶつかって3年で辞めた。それなのに時計職人になるという俺を母親は応援してくれた。」

「お母さん嬉しかったんだよ。どんな形でもやりたい仕事続けてくれて。誇らしいと思うよ。素敵なお母さんだね。」

そう言うと暖人は少し辛そうな表情になった。

「でも、現実はそう甘くない。俺は自分の作品の売り上げだけで暮らしてるわけじゃないんだ。時計の修理の下請けの収入の方が多い。いい歳して貯金だってろくにない。年上だからってお前に偉そうなこと何も言えないんだよ。」

「収入なんて関係ないよ。夢中になれるものがあって楽しく生きてたらそれでいいんじゃないかな。それだって大切な財産だし。」

そう言った私を彼はふん、と鼻で笑った。

「やっぱり子供だな。そんなこと言ってられるのは今だけだよ。」

「じゃ、今はそう言っとく。」

「・・・変なやつ。」

「よく言われる。」

「そうだろうな。」

暖人がもう一度笑って私はすごく楽しくなった。それに彼には内緒だけれどこれからまだ楽しいことが待っている。その為に今日ここでイベントの打ち合わせをすることにしたのだ。
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