メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「・・・これ・・・。」

すっかり秋色に染まった夕方の風に吹かれているとふいに暖人が私のネックレスに触れた。

公園のハンドメイドマーケットで店じまいする時、電車で携帯を借りたお礼に、と雪うさぎの腕時計の他にもう1つもらったものがあった。

それは文字盤が木でできている時計チャームで、あの花びら───カフェのお庭で私の髪についたもの───を押し花にしてレジンに閉じ込めたものと一緒に紐を通してペンダントにしたのだった。

「お花はそのうち色褪せちゃうけど、思い出はずっと残る。むしろ思い出は時間が経つほどキラキラと輝くんだよね。」

「まぁ、そうかもな・・・。」

「・・・あ、ねえ、見て。」

「おお・・・。」

私が正面を指差すと彼はペンダントからそちらに視線を移して感嘆の声を漏らした。

「ここからあの時計を見せたかったの。」

今日の笑顔や涙、それらのどちらにもなれないようなやり切れない想い、退屈な日々に対する憂鬱───それら全てが溶け込んだような夕日が目の前の校舎の壁に作られた大きな時計を照らし、白い文字盤がオレンジ色に染まっている。

この時計は80年ほど前に作られたもので趣がある。暑い日も寒い日もここでたくさんの学生達を見守ってきたのだ。
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