メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「楽しいことがあっても悲しいことがあっても時間はずっと止まらなくて新しい日───明日───が来るんだよね。時間は皆に平等で、大昔からずっと皆時間の中で生きてきて、次の世代に受け継がれている。今この瞬間も未来に繋がってるんだよね。」

「まあ、そうだな。」

「だから、その時間を刻む時計もそれを作る時計職人もすごく素敵な存在だと思うんだ。時計はずっと同じことを繰り返しているようで、一秒だって同じ時はないんだから・・・あ、ごめん、わけわからないよね。」

また語ってしまって恥ずかしくなる。こういうことを言うから『不思議ちゃん』なんて言われるんだ。しょんぼりと俯いていた私は暖人がすぐ隣に近づいて来ていたことに気がつかなかった。

ふいに手に指が絡んできてぎゅっと握られて驚く。

「・・・ありがとな。」

頬を撫でるそよ風にすら飛ばされてしまいそうな(かす)れた声で発せられたその言葉と彼の手の感触を私は全身で感じていた。

ガサガサした冷たい手。触り心地がいいとは言えないけれどずっと離したくないような・・・。

目の前の時計を見ながら『時間よ、止まれ。』と念を送ってみる。きっと今も世界中で幸せな時間を過ごしている人達が時計を見て同じことを思っているんだろう。一方、辛い時間を過ごしていて早く時間が過ぎてほしいと思いながら時計を見つめている人もたくさんいる。

どんなに願ってもどれだけお金を出しても時間は止められないし、時の流れを速くすることも遅くすることも出来ない。だから尊くもあるし残酷でもある。

その時間と人を繋ぐ時計を作り出す暖人の手を私は強く握り返した。
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