メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
「え!?そんな、大袈裟な・・・あ、歩けるよ・・・暖人バケツだって持ってるし、ねぇ・・・おろして。」

彼女は見た目に似合わず普段落ち着いているから、はしゃいだり慌てたりする姿がやたらと可愛く見えてしまう。

確かに抱き上げる必要はないかもしれない。正直に言おう。彼女に触れたかったのだ。

「うるさい。足手まといだから大人しくそこに収まってろアホ。ここは誰もいねえけど、ホテルには人いるだろうから恥ずかしいなら俺の胸で顔隠せ。」

顔が近い。そして杏花は目を伏せたまま俺と目を合わせようとしない。意地悪心が働いて顔を覗き込むと頬を赤くして泣きそうな表情になったのでゾクッとしてしまった。

彼女のこの反応は単に抱き上げられて恥ずかしいからだろう。彼女も少しは俺にドキドキしてくれていたらいいのに・・・そう思っている自分に気がついて、あぁ俺は彼女のことが好きなんだな、そう思った。海に心の表面の変な意地みたいなものを洗い流されて自分の心がよく見えるからかもしれない。

触れたい、という思いだけならそれはただの、男としての健全な欲求に過ぎない。しかしそれだけでなく『彼女も同じ気持ちでいてくれたら』と確かに思っていることに気づき、自分の心が恋の色に染まっていることを自覚したのだった。
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