メレンゲが焼きマシュマロになるまで。
───やってしまった。

杏花がボタニカル柄のカバーが気に入った、とのことで洋室のベッドで寝ることにしたので、俺は和室の布団で寝ていた。

自分の気持ちを自覚し、あいつのことを考えていたら眠れず、ついついベッドで眠る杏花の顔を見に行ってしまったら思わずキスをしてしまった。

海で唇に触れたくなってしまった気持ちが抑えきれていなかった上に、やたらと色気を放ちやがる浴衣姿を見てしまったことが追い討ちをかけたのかもしれない。

───それにしてもあんな薄暗くてムーディーで誰もいない休憩所で浴衣姿で隣に座ってくるなんて、けしからん奴だ。親の顔が見てみたい。

もしかしたら彼女の母親は露出度の高い服を着たお色気全開、という感じの美魔女で、その影響でこいつも自然と色気を(まと)っているのかもしれない。

また、今まではどうして男達が女をわざわざ抱き上げるのかよくわからなったが、今日わかった。ああやって抱き上げるとまるで彼女が自分のもののように感じるのだ。

眠る杏花の唇の誘惑に手も足も出なかった、いや出さなかった俺はつやつやとした唇に酔いしれた後、そのまま酔い潰れるように彼女の隣で寝てしまったらしい。

布団の中に杏花から香る砂糖のような香りがこもっているのか、豊かな甘い香りに再び酔わされそうだ。

ベッドサイドのチェストの上に置かれた時計を見ると6時過ぎ。彼女が目を覚ます前に起きられて良かったと胸を撫で下ろして和室に戻ろうと起き上がったが、ほっとしたのも束の間だった。
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