ある雪の降る日私は運命の恋をする-short stories-

朱鳥side

立った瞬間、本能的に”これはダメなやつだ”と悟った。

温泉の浴槽から出た途端、視界が端からだんだん暗くなっていって、平衡感覚がわからなくなる。

「ママ……?」

ここで倒れちゃダメ、葉月と望笑夏に心配かけちゃうし、周りの人にも迷惑をかける。

せめて、倒れないようにゆっくりと膝を曲げしゃがみ込んだ。

「ママっ、大丈夫?具合、悪くなっちゃった?」

焦った様子の葉月

楓摩にも散々言われてたし、心配してくれてるんだろうな

せっかくの、楽しい旅行なのにごめんね……

「…大丈夫、少し休めば良くなるから……」

そういったものの、頭は血の気が引いて冷たい感じがするし、正直視界も戻っていない。

こんな所でしゃがんでばっかりなのも、邪魔になるよね……

どうしよう……

血が回らない頭では、ろくなアイディアも浮かばない。

楓摩、助けて…なんて

今は私がお母さんなのに、2人を守らなきゃいけないのに、ほんとダメだな……

急に悲しくなってきた

でも、2人の前だもん、涙は見せられない

頑張らなきゃ、自分で動かなきゃ……

ああ、少しだけ回復したような気もする

うん、そう思うことにしよう

それで、とりあえず脱衣場で服を着て、そこを抜けたら座り込んでもいいから……

とにかく、女湯だから楓摩は入れないだろうし、合流できる所まで……

「…葉月、望笑夏、ちょっとはやいけど、行こうか……」

上手く笑えてるかもわからないけれど、私は小さなふたりに向けて微笑みを向けた。
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