ある雪の降る日私は運命の恋をする-short stories-
「なあ、北斗。一緒に、クリニック開かないか?」

兄さんに『大事な話がある』と言われ、呼び出された時だった。

「え」

兄さんはとても真剣で、でも凄く優しい顔をしていた。

「で、でも兄さん、父さんのクリニックはどうするの…?父さんは、兄さんに跡を継いで貰いたいと思っているだろ……?」

「うん。でも、そっちは断る。もしくは、いつか父さんが引退する時に、俺がやりたいことが達成出来ていたら、そっちのクリニックを継ぐことにする。」

とても兄さんらしい発言だった。

兄さんはいつもそう。

自分の理想を追いかけて、全て叶えちゃうんだ。

今回もそうなるだろう、と予測は簡単だった。

でも、それよりも……

「なんで、その話俺にしたの?」

”一緒に”俺の聞き間違えじゃなきゃ、兄さんは確かにそう言った。

「なんで、って、そりゃあ俺がお前と一緒にやりたいと思ったからだよ。北斗は嫌?」

「嫌も何も、俺は麻酔科を目指して………」

そこまで口にして気付く。

元々麻酔を目指したのは名誉のためだった。

医師の中でも、難関とされる麻酔科医になって、みんなに認められたかった。

でも、今は……

「兄さん」

「ん?」

今の俺がやりたいこと

「俺にも、俺みたいに”心”で苦しむ人を助けてあげられるかな……」

語尾が震えた。

初めて、誰のためでもない自分のために何かをやりたいと、強く思った。

それが、これ。

「うん!できる!ていうか、むしろ、北斗だからこそ同じ立場の人の心を理解して、解してあげることができるはずだよ。」

俺の頭をぽんぽんと撫でる兄さんの手は相変わらず大きくて、とても暖かかった。










< 60 / 67 >

この作品をシェア

pagetop