バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました
 ただ、気を落としているわけにもいかない事態が起きていた。

 入口の方に人だかりができて、何か騒ぎが起きているのだ。

 広報の関口さんが先輩のところに駆けつけてくる。

「山中さん。大里選手のコメントがほしいって、招待していないスポーツ紙の記者も大勢詰めかけてるんですよ。俺たちの手に負えません」

「え、大変。中に入れるわけにはいかないわよ。絵画や調度品に傷でもついたら大問題じゃない。とにかく止めて」

 先輩がすぐに対応に向かおうとするけど、人が多いし、コスプレのせいで機敏に動けない。

「私も行きます」

 少しでも失敗を挽回しないと。

 受付では、詰めかけた記者達と、うちの社員との間で押し問答が繰り広げられていた。

「取材させてくださいよ」

「申し訳ありませんが、スペースの関係で……」

「なんでうちはだめなんだ!」

「本日は、美術展ということで文化部の記者の方だけをお招きしておりますので」

「PRなんだから、お互い協力すべきだろう!」

 もともと大里選手引退のニュースが出るのは予想外のことだったから、この会場で対応するのは無理な話だった。

 一般のお客さん達も集まってきてしまっていて、収拾がつきそうもない。

 私は先輩と一緒に入口に立って、記者達を押し戻すのが精一杯だった。

 さらに、そこへ中からSPに付き添われた大臣と長官までやってきてしまった。

「あ、林田大臣、大学入試の改革案について、野党から不満の声が上がっていますが」

 そんなの今ここで聞かなくてもいいのに。

 そもそも、スポーツ新聞の取材じゃなかったっけ。

 SPの人に遮られて記者たちから怒号が上がる。

「説明責任があるんじゃないですか。国民の方を向いてくださいよ」

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