バイバイ、ベリヒル 眠り姫を起こしに来た御曹司と駆け落ちしちゃいました

   ◇

 それから私たちは熱いシャワーを浴びてお互いの体を温めあった。

 そして私は彼の腕の中で一夜を過ごした。

 ……今、何時だろう?

 カーテンの隙間から差し込んでくる淡い光が、狭いベッドに横たわる彼の穏やかな表情を浮かび上がらせている。

 あんなに貪欲に私をむさぼりつくしていた野獣が今は安らかな寝息を立てている。

 昨夜私をベッドに押しつけながら彼が耳元でささやいた言葉を思い出す。

『こんな俺で、いいのか?』

 私は大切な人の目を見つめて答えた。

『徹也さんじゃなきゃいやです』

 私は彼の胸に顔を押しつけた。

 彼の腕が私を強く抱きしめる。

『後悔はさせないさ』

 するわけない。

 絶対しない。

 私だって……。

 私だって後悔なんかさせないんだから。

 彼の指が私の髪を愛撫する。

『だから、眠ってていいぞ』

 私はそっと目を閉じた。

『……いつまでも、俺の腕の中で』

 そんな昨夜のことは夢のようだった。

 夢ではないことを確かめたくて、私は彼の頬をなでてみた。

 少しだけ伸びたひげのざらつきすらも愛おしい。

「ん……」

 薄く目を開けた彼が私に口づける。

 私はまた彼の腕に頭をのせた。

「眠り姫は王子様のキスで起きるんじゃないのか?」

「だって、まだこうしていたいんだもん」

「キスが足りないのか」

 ……そう。

 彼のキスが優しすぎるから。

 私はいつまでも夢の中だ。

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