交錯白黒
「ねえ、何でよ、何でなのよ……!何で私は何も報われないの!何で打ちのめそうとするのよ……!」
彼女は大きな瞳を真っ赤に充血させ、声を枯らしながらむせび泣く。
小さな丘に、女の金切り声が木霊し、幾度となく響き渡る破裂音にかき消された。
まさか……まさかそんな無神経なことを言っていたとは思わなかった。
全く記憶が無いのだ。
だが、彼女の今の悲痛そうな表情や声色には演技を感じない。
実際に私はそう言ったのだろう。
でもそれは、彼女を見下していたのではなく――。
ぎりっ、と奥歯が擦れた。
「頑張りを、誰も見てくれない、誰も認めてくれない。それどころか、怠けてるっていう、虚像を作られて、蔑まれる。なら、私はどうすればよかったのよ!私の今までの時間は、辛さは何だったの!!」
吐き出した怒りの大きさへの怯えが表れているかのように涙に濡れた顔を掻きむしる。
赤いネイルが赤い線を引き、そこから薄く鮮血が流れ出していた。
高田さんがギリギリで堪えてきたものが今爆発し、それは彼女が想像していたものよりも大きく、脅威的で、彼女自身ですら制御できず、どんどん荒廃していくように見えた。
自分の言動が与えた影響に、慄く。
「あんたはっ、あんたは!!確かに、私と違った、努力が報われる人間だった!!例え、誰にも見えなくとも……!天才だから、とか、当然だから、とか自分の頑張りをそんな軽い一言で済まされて、それができなければ散々叩かれる。それを守るにあたっての重圧とか、守備しきれたときの達成感の無さ、その代わりにどっと襲ってくる疲労感の大きさも……全部、あんたが一番知っている!!でもあんたは辛そうな素振りなんて、学校では見せなかった。だから、だから……!!なのに何で!!」
だから、尊敬していたのに。
そう言いたげだった。
「ごめん。ごめんね」
座り込んだままの、だらしない格好のまま、そう言った。
傷つけてしまった人と目を合わせることすらできない軟弱者の掌からは、パサパサの土の感触が伝わった。
優しく撫でるような風が、頬の切り傷に染みる。
肉の奥底まで、切り開かれているような。
「謝って済む問題じゃ……」
「わかってる。でも、ごめん」
そのときの私は、魂を持たないお人形だったの。
色々知って、潰れていっていた、丁度その最中だったの。
でもそれは、言い訳にすぎない。
何故なら貴女を傷つけてしまっているのだから。
だから、言わない。