交錯白黒
そんなとき、アメリカにいた友人がある話を持ち掛けてきた。
今、こちらでは遺伝子研究をしている。
それが上手く行けば、彼女は延命できるかもしれない。
被験者になってみないか、と。
俺は内容も聞かず承諾した。
我ながら軽率な判断だったと思うが、これを聞いてもそれは撤回しないか?
日本で臓器移植を受けられるのはたったの2%。
心臓となるとさらに低くなる。
移植には生体移植と普通の移植があり、生体移植というのは生きている人から臓器を貰うこと。
これで多いのが腎移植で、腎臓は一つあれば正常に働くので、2つあるうちの一つを、家族から移植するのがメジャーだ。
だが勿論、心臓では生体移植は不可能。
脳死、つまり体は生きていて脳の機能のみがなくなった患者からしか心臓は頂けない。
それも、血液型などの条件も適合しなければならないなんて、そんな奇跡、早々ない。
だから、縋るしかなかったんだ。
沈んでいって足を絡め取られるこの暗い沼に差し出してくれた手に。
例えそれが細くて小さくて頼りなくても、汚くて狡猾で触れたくなくても。
それだけが、這い上がる術だったんだ。
俺はその本質を見ようとせず、幻影に騙され喜び、気が狂ったように彼女をアメリカに連れていった。
その時恋藍がどういう反応をしたかは記憶していない。
甘い誘いに酔い、盲目になっていたから。
指定された病院に行けば、他は普通の病院と変わらないのに、そこの部屋だけ様々実験器具が棚に陳列されており、シャーレもあった。
フラッシュバックが起きてパニックになりかけたが何とか抑える。
ものが多いだけで決して汚かったわけではないが、何だか忙しなくみえて落ち着かなかった。
人はそんなにいないように見えて、何の部署かはわからなかった。
友が説明した内容は簡潔にまとめると、大体このようなものだった。
恋藍のクローンを作り、成長促進剤を投与して移植できる体の大きさにして、恋藍に心臓を移植するというものだった。
恋藍と俺は激昂した。
静かな部屋にそれを揺るがす程の怒声を響かせ、部屋をあとにした。
そして、ホテルの部屋に入った瞬間、二人で崩れ落ちて、玄関で抱き合って泣いた。