交錯白黒
「うわぁ……」
辺り一面、紙、紙、紙。
足を踏み入れる隙間もないような荒れ様で、更に夏頃に僕と琥珀があらゆるところに潜んでいた資料を引っ張り出したことで、更に量が増えたように思う。
親父は片付けようとは思わなかったのだろうか。
パソコンだけは利用したかったのか、そこへの道筋だけはしっかりと紙に皺が入り、凹んでいた。
ただ、ここまでパソコンまで真っ直ぐに伸びていると、ねちっこいまでの貪欲さを感じさせてゾクリとした。
「あ、天藍さん……この有様ですよ」
「信じられないくらい酷いですね。頑張りましょう」
彼女は抑揚の無い棒な声でそう告げ、僕と琥珀の脇をすり抜けて勇猛果敢に紙の山に乗り込み、漁る。
そしてさらりと紙の表面を前髪をあげることもなく視線で撫でるとぺいっと捨てて次の紙に取り掛かっていた。
「はぁ……何で紙媒体の資料にしたのかな……いくら昔といえど、親父が成人している時代にはパソコンのデータを保存できただろうに……」
僕も突っ立っていることに背徳感を感じ始め、ぶつぶつ文句を言いながら紙を掘る。
「なあ、天藍ってさぁ」
琥珀の声が前方の方から聞こえるかと思ったら、いつの間にかパソコンを弄っていた。
なんて素早い奴なんだ。
「天に藍色の藍って書くよな?」
「……そうよ」
彼女の声に異変は無かったが、返答までの時間が少し長かったように思い、紙から顔を上げて彼女のほうをみると、ほんのり頬に紅が散っていた。
何故かは人より鋭いだろうという自負のある僕でさえもわからなかった。
「それがどしたの、琥珀」
「いや、もしかしたらあのロックされてたファイルのパスワードがわかるかもしんねぇと思ってな」
「え、何で何で」
僕は皺の入った白い紙に載っている活字を追うなんて退屈な作業から勇んで離れ、琥珀の周りに群がる。
「ここ、パソコンの後ろ側にメモが貼ってあった。それが、これ」
元々白色の地だったであろう黄ばんだ付箋には、片仮名の単語が乱雑な字で3つ記されていた。
あまりにも形が崩れているので字を判断しかねるが、無理やり読むと、こうなる。
「ラピスラズリ、ラズライト、アンバー……テー……ナ……かな」
「俺もそう思う」
「これさ、宝石の名前?」