交錯白黒
「あの、それなら普通に私達の誕生日を入力するほうが、当たる確率が高いんじゃないですか」
将来はキャリアウーマンになりそうだ、なんて無関係のことを思いつつ、未だ紙の選別作業を続ける彼女の声に耳を傾ける。
「それもそうだが……」
「天藍ちゃん、誕生日いつ?」
琥珀が口籠ったのを遮り、僕は確信を持って彼らに質問を重ねる。
「え……8月17日ですけど」
「琥珀、8月17日の誕生石は?」
「……ラズライト……」
やはりそうだ。
自身の予想とぴったり合致して、ほぼ確定に近い推理を披露した。
「僕の誕生日は9月19日。琥珀の誕生日は5月25日。いずれも、ラピスラズリとアンバーが誕生石の日だ」
つまり、付箋に書かれていた宝石の誕生石と指定されている日、即ち僕らの誕生日を繋げたものがパスワードになる。
4つ書いてあり、今判明しているのは3つなわけだから、現在12桁。
丁度マイナンバーの桁数と同じである。
テーナの正体さえわかれば、全部で16桁となるのだ。
「なる程な……」
追い詰められたように苦しげだが、どこか愉快そうに琥珀が薄い唇を舌でなぞった。
「そんなにやべぇ資料が隠されてんのかよ、ここには」
「みたいだね。パスワードで16桁は相当だよ」
憐れにも埃を被って年季を感じさせるそのパソコンに封印された、秘蔵のデータの壮大さを想像して身震いする。
そこまでして隠匿したかったもの……そんなの、腐った蔓で繋がっているような僕らの関係の源、そして全容に決まっているだろう。
「あの……私、テーナっていう鉱石、知ってます」
「は!?」
「え!?」
禍々しいオーラを放っていたであろう僕ら二人のそれを絶ち、一番の問題であった事柄をいとも簡単に打ち砕いた。
彼女は何でもないようなことと思っているのか、僕達二人に背を向け、屈み、資料をわけているままである。
琥珀の目つきが、獲物を狩る槍の先のようにキラリと光り、鋭利になったのを僕は見逃さなかった。