交錯白黒

ガタン

私は思わず立ち上がった。

この人は何を言っているのだ。

冗談もいい加減にしてもらいたい。

「ふざけないで。趣味悪いドッキリなら帰りますよ」

帰って以後、貴方と関わることはないでしょうね、と心の中で付け足す。

「ごめん、言い方が悪かったね。でも、事実だよ。絶交するのは、僕の話聞き終わってからにして」

どうやら瑠璃さんには全て心情が見抜かれたようだ。

途中で帰っても面倒臭そうなので、苛々を抑えながら座り直す。

「久しぶりに家の大掃除をしたら、これが見つかったんだ」

これ、と提示してきたのは、古ぼけた冊子。

diary、と表紙に記載があることから、日記帳なのだろう。

「これ、琥珀の日記。筆まめも遺伝するんだね」

哀しそうな光を宿して、読んで、と押し付けてくる。

読みたくてたまらない気持ちと、読むのが怖いのが半々でせめぎ合って、日記帳を受け取る手が震える。




――琥珀が生きていた。



 
その真意は測りかねている。


これを読めば、わかるということなのだろうか。

「全部読んでから僕の話聞いてもいいけど、すぐ知りたいなら栞挟んでるページ開いて」

固まる私を見かねてか、瑠璃さんがそんな助け舟をだしてくれた。

私は、すぐ知りたかった。

瑠璃さんの言葉の真実を。

焦りと震えで日記帳が何度も破れそうになる。

「なに……これ」

そこには、何かが印刷された紙と、橘くんの文字。

それと、私の筆跡。

「これ……ドナーカードのコピー……?」

「そうだよ」


『私は、脳死後及び心臓が停止した死後のいずれでも、移植のために臓器を提供します。』

ドナーカードには、自身どんな場合に陥ったときに、何の臓器を提供してもいいか選ぶことができる。

上記の項目は、簡単に言えば自身が生きる機能を失ったどの場合でも、臓器を提供していい、という意思表示ができる項目だ。

橘くんはこれに丸をつけている。

提供したくない臓器については、その臓器にバツ印をつけるようになっているのだが、そこを見て、私は息を飲んだ。

地球上の酸素が、ごっそり無くなったかと思った。


何故って。







"心臓"以外の臓器に、全てバツ印がつけられていたのだから――。






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