交錯白黒
「あ……っ」

突然の遭遇に語彙という語彙が消し飛ぶ。

空気が喉に張り付き、水気を失わせ、呼吸すら、奪おうとし、全身に、化膿したような、ジクジクとした粘着質な痛みが蘇った。
 
たちばなくんも動揺の色を浮かべていることが、更に心臓を揺さぶる。

どくどくどく。

心臓が警鐘を鳴らし、うるさいと、止めようとすればする程、それは激しく、大きくなっていった。

何で、ここに?

たちばなくんがいるの?

どうして?

「こんなところで、何してる」

さっきまでの動揺はどこへ飛ばしたのか不思議になる程凛とした声が響き、心臓が速く小刻みに震える。

動揺と混乱で吐き気が止まらない。

「体調悪いなら病室に籠もっとけよ」

冷たく、凍りつきそうなその声に、更に血の気か引くのを感じた。

「おい、どこだよ!?」

「す、すみませんっ!そんなに遠くへは行っていないと思いますが……!」

たちばなくんは、しかめっ面でため息をつき、それに合わせ、さらさらと艷やかな前髪が揺れた。

「ったく。お前、病室どこだよ?」

たちばなくんが、面倒臭そうに髪を掻き上げ、その癖のない髪が指の隙間から零れていく。

その様子に思わず酔いそうになり、目眩が起きた。

「え、と、……この一階下の、階の端、で、わっ!」

答えた瞬間、腕に刺激が走り視界が狂い、気づけば足がもつれながらも勝手に前へ進んでいた。

刺激を感じた腕の先を見ると、手首が強く掴まれている。

……誰に?

た、たちばなくん!?

「ちっ、この格好じゃ走りにくいな」

繊細そうな指先なのに、痛いくらい、ガッチリと私の手首を握っている。

目の前には、大きな背中。

何故彼はここにいるの?

何故私を引いて行くの?

何故彼は私だと分かっても話しかけたの?

混乱、動揺、恐怖、疑問……が渦巻き、大きくなっていく。

そのうち、私自身も巻き込まれそうだと判断し、心を無にして体を彼に委ねた。
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