交錯白黒

「はぁ、はぁっ、はぁっ」

自分の息切れの音が不快だった。

大きく脈打つ心臓の鼓動が肋骨まで響き、痛みが走る。

肺の動きが追いつかずに、痙攣するように息を継いだが、どうやら酸素が足りなかったようで、元々白い病室に靄がかかって、濁った景色になった。

こんな私に対してたちばなくんは何の変化も無し。

私の手首は掴んだまま、瞳から青い光を放っている。

……そりゃそうだ。

たちばなくんのスピードに、私が適応できる訳ないもん。

たちばなくんにとっては普通なのかもしれないけど……私にとっては、自分が新幹線になったように感じた。

ちらり、と彼を見上げると、艷やかな黒髪が蛍光灯に照らされ、人工的に煌めいていた。

人間の心を持っているとは思えない、冷たい佇まいが少しばかりの恐怖を生む。

たちばなくんはどういう思いでここまで私を連れてきたのだろう。

「病人は部屋で大人しくしとけ、馬鹿。投げるぞ」

……その病人走らせたの誰なのよ?
 
言葉が息切れに掻き消され、声にならず、どくん、どくんと鼓動だけが大きく響いていた。

と、突然。

バタン。

え?

くるり、と景色が半回転し、ずむん、と柔らかいものに背中から沈み込む感覚があった。

その時の衝撃で前髪が2つに分かれ、視界が開け、暗かった私の世界が、無理矢理明るくされた。

私の視界には軽蔑的な視線で見下ろすたちばなくん。

その眼差しが鋭く冷ややかで、ぞくっ、と背中に何かが走った。

私の意志と関係無く持ち上がった、私の手は、手首から先がだらん、と感覚も無く垂れている。

その奥のたちばなくんの顔は、逆光なのが厳格さを引き立たせ、更にぞくぞくした。

「何で返事をしない?そんなに苦しいなら寝とけっての」

眉間にしわを寄せて、掴んだままだった私の手首を放り出す。

そのまま私に背中を向け、スタスタと病室を後にした。

私はというと、たちばなくんに投げ出された格好のまま……呆気。

かなり物事がスピーディーに進み、やっと思えたことはこれだった。

……本当に投げた。

ベッドの上に向かってだとしても、人を本気で投げられるなんて、どんな神経してんだ。

ビリビリと電気が走ったかのように痛む手首は真っ赤である。

……相変わらず、だ。

皮肉を込めて、唇を曲げた。
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