交錯白黒
キーンコーンカーンコーン……。
とても懐かしいチャイムの音。
これを聞くたび、安心していた。
予令を合図に、皆虫のようにぞろぞろと席へ戻る。
初めは静まりの中に嫌な視線とヒソヒソ声が混じっていた。
私の全身を舐めるように見られ、その視線をカッ切りたい衝動が膨らんだが、私がそんなことをすれば大炎上に決まっている。
黙って耐えているしかないのだ。
一度、輪から追い出された者は。
「え〜?琥珀、それな〜に?また女の子からのプレゼント?モテモテだね〜!」
猫なで声に頭痛がする。
その声の持ち主はこのクラスのNo.2の権力者の、高田さんだ。
高田、麗華。
目がきれいなアーモンド形をしている、正に猫のような目で、黒髪のストレート。
足も長くきれいなので、本当にモデルさんみたいだ。
「違う」
橘くんはこういうのに慣れているようで、ため息混じりにそう呟いただけ。
「じゃあ何〜?」
「教科書」
「何で紙袋なんかに入れてるの〜?」
「クラスメートから借りたから」
「ふーん。誰から借りたの?」
微妙に声が低くなった、ということは女王様がご機嫌斜めということだ。
「高田には関係ない」
「何でそんなこと言うの!もう、いいもん!」
肩に垂れる黒髪を一度振り払い、ニヤリと嫌な笑みを浮かべたかと思うと、高く、大きな声が教室内に響いた。
「ねえねえ、この中で琥珀に教科書貸した人、だあれ〜?」
そこまでして知りたいか、と馬鹿馬鹿しくて鼻で笑いたくなる。
たかが教科書貸しただけではないか。
勿論、その問いに応じる者はいない。
なぜならそれは私と橘くんしか事情を知らないからだ。
橘くんが嘘を吐いてくれたこともあり、私はすっかり安心していた。
「……ふーん、そう。それなら、あんたしかいないわよね」
猫の瞳が私の像を捉え、ギクリと心臓が音を鳴らした。
皆の視線が、痛い。
「ねぇ?ていうか、久しぶりね、如月さん?」
こういうときは、無駄に関わらないことが大切だ。
一度関わればいずれそれが絡み付いて己を苦しめるのみ。
「え〜?何で無視するの〜?」
自分は散々無視だの何だのしてる癖に、記憶能力大丈夫なのかな。