交錯白黒

「はぁ」

初夏の生暖かい空気に、私の生温かいため息が消えて行く。

桜もそろそろ終焉を迎えたようで、黄緑のの葉が芽吹き始めていた。

千稲ちゃんには、あれっきり謝れてもいない。

後悔で常時身悶えしていたのだが、千稲ちゃんの「来ないで」という言葉が病院に行く足を縛り付け、病室のドアにかける手を固まらせた。

彼女の泣き顔と悲痛な声が夢で何度もリピートし、その度にパジャマは肌に貼り付いた。

お見舞いに行こうとして病院から帰り、そしたら家には知成さんがいて、勉強を教わる、なんていう日々を過ごしていたら、約束の学校に行く日になってしまった。

千稲ちゃんとこんなことになるなら、学校の苦痛なんて屁でもない。

学校に行ったところで何も解決しないし……でも、サボれば遥斗の洗礼が待ち受けている。

はぁ、ともう一度ため息をついて、右手に下がった紙袋を見る。

そう、これは結局一度も覗くことの無かった橘くんの紙袋。

なんて書いていいかわからなくて、一言だけ書いたメモを入れておいた。

リュックがやけに軽いのは、自分の教科書が見つからなくてノートと筆記用具しか入れてないからだ。

多分、先生が預かっているか何かだろう。

そこからは、永遠に変化しない紺色のアスファルトを自分の革靴がなぞるのを見ているだけで、いつの間にか学校に着いていた。
 
うちの学校は生徒数が少ないから、教室の場所が変わるだけで、クラス替えは行われない。

だから、希望も見いだせない。

うちの学校は、受験対策の時間を取るために早めに授業を進めている。

そのため、二年生の教科書も一年生の3学期あたりに配られるる。

新しい教室を確認し、重い足をなんとか持ち上げた。

教室にはまだ誰もいなかった。

少し安堵し、座席表を確認する。

その安堵は恐怖にぶち壊され、上靴が教室のドアのほうへ向いた。

……私、呪われてるのかな。

席は教室の後ろの隅で、そこは先生も配慮してくれたのか、とても嬉しかった。

問題は、その隣。
 
……何で、橘くんなの!?
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