交錯白黒
容疑者の連行中のように連れてこられたここは、人気のない体育倉庫裏。
じめじめしていて、涼しいのが寒気を誘う。
そんな中、桁違いに冷たい声が私を射抜いた。
「お前、何で学校来たんだよ」
特に意味はない、と誤魔化そうとしたいのに、唇が動かない。
喉が干上がる。
「何でかって聞いてんだけど」
語気が強まり、震えが全身へと広がった。
「お前しゃべれねぇの?」
ドン!
ゴン!
壁まで追いやられ、頭の斜め上あたりに橘くんが大きく手をついた。
こんな初壁ドン嫌……。
「……た」
「は?」
「約束した……」
涙声になるのを堪えるために唇を一度噛み締め、もう一度言った。
「約束したのっ、知成さんとっ遥斗とっ」
そこまで一気に言って、3秒ほどしてから意味はないが反射的に口を手で抑える。
そこまで言う必要なんてなかったのに、橘くんの圧に負けて、つい口を滑らせてしまった。
冷酷な美が私を支配する。
「誰だよそいつ」
「弟と、その知り合いの人……」
橘くんなんかに馬鹿正直に話してしまう自分の口を呪った。
「チナリ、ねぇ……」
何かを考え込むように俯いたあと、肘まで壁につけてきて、顔との距離が縮まる。
額なんてひっついているんじゃないかという距離、鋭そうに見えて中々鈍感なようだ。
ドクン
近いから、という甘い鼓動じゃない。
私の中に眠っている何かが、強制的に掘り起こされるような、そんな感覚。
そして、あの顔と重なった。
……やっぱり、知成さんと橘くん、似てる。
高い鼻や黒い宝石みたいな瞳が酷似している。
「そいつの名字、何?」
「え……」
流石にそれは、プライバシー侵害なのでは、と思い、言おうか迷う。
「言いにくいなら、yesかnoで答えろ。そいつの名字は、た、ば、る。この3文字で構成されてるか?」
る、るばた……。
ここまで正確に当てられるなんて、ストーカーでもやっていたのだろうか。
……何故知っているの?
「い、yes……」
私の返答を聞くと、げんなりしたようにため息をついた。
その息が少し当たって、顔に熱が上る。
「……は、あいつ……」
橘くんは馬鹿にしたような、でも諦めたような優しさのある笑いを零した。
そろそろこの恐怖の壁ドンから逃がれたいものだが、こんなに人間味を感じる橘くんは新鮮で面白い。
観察したい気持ちも少し湧いてきてしまった。