アイツの溺愛には敵わない
「そういう時、私に関する話をしたことがあるの?」
「まあ、多少……」
急に歯切れが悪い。
首を傾げると、吉田くんがプッと吹き出すように笑った。
「多少っていうか、いつも琴宮さんの話ばかりしてただろ?中学の頃からずっとそうだよな。お前はいつだって琴宮さんの……」
「それより、前に吉田が読みたいって言ってた文庫本。持ってきたけどどうする?」
「えっ、マジ!?もう忘れられてんのかと思ってた!」
「いや、半月ぐらい前の話だし、さすがに覚えてるよ。返却はいつでもいいから」
「了解。ありがと!」
スクバから取り出した本を吉田くんに手渡す颯己をジッと見つめた。
今、強制的に話題を変えたよね。
ちょっと照れくさそうな感じだし、あまり触れられたくなかったのかな。
なんだか、途中で話を中断されると続きが気になる。
何を言おうとしたんだろう。
駅に着いて電車に乗り込んだ後も、そのことが頭の中を占めていた。