アイツの溺愛には敵わない
でも学校が近付くにつれて、気になっていた吉田くんの話は頭の片隅へ。
緊張が勝る状態となってしまった。
「はーちゃん、だんだん歩き方がぎこちなくなってきてるけど、大丈夫?」
「う、うん。ちょっと緊張してるだけだから」
ちょっとじゃなくて“かなり”の方が正しいかもしれない。
落ち着かなくては。
深呼吸を何度か繰り返していた時、不意に颯己が私の手をグイッと引っ張る。
「はーちゃん、こっち」
そして狭い路地へと入った。
「この道だとちょっと遠回りになるよ?」
「ようやくはーちゃんと登校できるようになったことだし、少しでも長く二人の時間を楽しみたいなと思って」
きっと、理由はそれだけじゃない。
緊張している私を気遣って、人通りが殆どない静かな路地に入ってくれたんだ。
「颯己、ありがとう」
「時間に余裕はあるんだし、ゆっくり行こうよ」
「……そうだね」
今の今までガチガチに緊張してたのに。
颯己の優しさのおかげでだいぶ解れた気がする。
自然に緩む口元。
私は颯己の手をギュッと握り返した。